本文
数ある食中毒菌の中でも、ボツリヌス菌が持つ「熱に強い」、「強い神経毒」、「神経症状(めまいや呼吸困難など)を引き起こす」、「致死率が高い」といった特性は、おう吐や下痢など消化器症状を主症状とする他の食中毒菌とは大きく異なります。
また、生後1歳未満の乳児がかかる「乳児ボツリヌス症」の原因菌でもあります。
どのような食品でボツリヌス菌が増殖しやすいのかを学び、食中毒を防ぎましょう。
土壌、海や湖の泥の中など環境中に広く分布する嫌気性(=酸素が少ない環境で増殖する)細菌です。野菜、果物、肉、魚などのあらゆる食べ物を汚染します。
周りが自分にとって都合の悪い環境(高温、低温など)になっても死滅せず、熱、乾燥や薬に耐えられる「芽胞(がほう)」という状態になって生存し続けます。
ボツリヌス菌が作り出す毒素は神経毒であり、脱力感、けん怠感、めまいの他に言語障害、嚥下困難、歩行障害、呼吸困難など重篤な神経症状を起こします。
ボツリヌス症には「食餌性ボツリヌス症」と「乳児ボツリヌス症」がありますが、「食餌性ボツリヌス症」の致死率は10~20%、「乳児ボツリヌス症」の致死率は2%と、食中毒の中では高い致死率を示します。
嫌気性(=酸素が少ない環境で増殖する)のボツリヌス菌は、酸素が乏しい食品中で増菌する際に毒素を産生します。ボツリヌス毒素がついた食品を摂取することで食中毒がおこります。
そのため、真空包装食品、缶詰、瓶詰、発酵食品などがボツリヌス菌が増えやすい食品として挙げられます。
国内での食中毒事例として、辛子レンコン、ハヤシライスの具材、あずきばっとう(ぜんざいにうどんが入った食品)、里芋の缶詰やグリーンオリーブの瓶詰め、自家製の「いずし類」が原因になっており、死亡事故もありました。
海外ではシチュー、キノコの瓶詰め、発酵スジコ、チリソース缶詰などが原因食品で事故が起こっています。
概要 | 要因 |
---|---|
「ハヤシライスの具」(真空パック食品)が原因で1名が意識混濁、四肢麻痺 |
冷蔵保存の表示があったものの、購入してから喫食までの数日間、室温で保管されていた。
|
「からしレンコン」(真空パック食品)が原因で36名がボツリヌス症、うち11名が死亡 |
からしレンコンを作る際の加熱が不十分で、食品中にボツリヌス菌が残存してしまった。
|
井戸水を使ったミルクや白湯を与えていた乳児がボツリヌス症 |
患者宅で使用していた井戸水からボツリヌス菌が検出された。
|
生後1歳未満の乳児は、腸内環境が整っておらず、ボツリヌス菌が腸内に侵入した時に他の腸内細菌で抑えることができません。
そのため、生後1歳未満の乳児にボツリヌス菌を含む食品を与えると、体内で菌が増殖する過程で毒素が産生され、便秘傾向から始まり、全身の筋力低下をきたします。
それによって泣き声や哺乳する力が弱まり、首の筋力が弱くなるため首のすわりが悪くなるなどを引き起こし、重症化すると呼吸困難などに至って死亡します。
ボツリヌス菌は環境中に広く分布しているので、乳児の食事を与えるときは手洗いなど徹底し、また乳児ボツリヌス症のリスクが高い食品(ハチミツ、黒糖、コーンシロップ及びこれらを使った食品)は絶対に与えないでください。
自然界で最も強い毒力を持つと言われているボツリヌス毒素ですが、熱に弱いという弱点があります。
また、ボツリヌス菌が熱に耐えるために作る芽胞も、条件を満たせば熱で壊すことができます。
レトルト食品と似通った真空包装食品は、常温で保管できると誤解されやすいです。
ボツリヌス菌食中毒を防ぐために、密封包装した食品を作るときは下記の項目を遵守して下さい。
《厚生労働省ホームページ》
《食品安全委員会》