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さまざまな食材が旬を迎え、多くの実りを楽しむ「収穫の秋」。
農作物を育てる人、届ける人、調理する人等、多くの人の手を介して、私たちの毎日の「食」が支えられています。
今、奈良では「農と食」にまつわる新しい動きが始まっています。
今回はそれを支える人々に焦点を当て、日本の食文化発祥の地 奈良が育む、おいしい食の新たな側面を紹介します。
市と日本郵便、「Local Coop大和高原(LCY)」の3者で4月から開始した新しい流通システム。
日本郵便の地域内配送サービス「ぽすちょこ便」を活用し、月ヶ瀬地区の特産品を、市街地の飲食店に流通させる仕組み。
農家・郵便局・飲食店の抱える課題を解決できる取り組みとして、展開を始めています。
大和高原直送便のパートナー飲食店 中山 有記さん
「四季の味 圓通」(大宮町六丁目)の店主。
ミシュランガイド奈良2023でビブグルマンを獲得。
日本料理を中心に旬の一品が豊富にそろう。
店に通うお客さんからの紹介で大和高原直送便を利用し始めました。
毎朝、月ヶ瀬の直売所に入荷する野菜の写真がLINEで届き、そのまま発注できます。
季節に合わせてさまざまな野菜が出品されます。
露地栽培(ハウスではなく屋外の畑での栽培)が多い月ヶ瀬の野菜は、サイズや形は不ぞろいで、生産量も安定しませんが、味がしっかりしていて、とてもおいしいんです。
ハウス栽培が少ない分、年間を通じて同じ野菜は購入できません。
ただ、四季折々の新鮮な旬の食材を得られることは、季節感を大切にするお店のコンセプトとも合致し、活用しています。
私のお気に入りは「おかわかめ」。湯がいておひたしにすると絶品です。
戸棚に入らないほどの大きな白菜が届いたこともあります。
野菜に触れる中で、一度作り手に会ってみたいと思っていると、縁あって2月にその機会が生まれました<外部リンク>。
実際に生産者に会って感じたのは「畑への熱意」。
生産者の多くは高齢ですが、作業一つ一つに手間暇をかけた、丁寧な仕事ぶりに感銘を受けました。
例えば「しそのふりかけ」は、地道に並べて天日干し等、全て手作業で行われているんです。
まだまだ課題もある直送便ですが、生産者の思いのこもったおいしい野菜を多くの人に提供できる、いい取り組みだと思います。
より多くのお店に広まってほしいですね。
・DLIGHT LIFE & HOTELS ANDO HOTEL奈良若草山(川上町)
・ベジタリアンレストラン喜菜亭(杉ヶ町)
・菜宴 - 野菜ダイニング和洋折衷(小西町)
South farm(矢田原町)で米農家を始めて1年
南 誠さん
高齢の父の跡を継ぎ、令和5年4月から農業経営を開始。
新規就農者の一人。
米作りは、特に作業工程が多く煩雑なため本当に大変です。
もう少し負担を減らせないかと、全自動化を目指し、1年間、農作業用の機械の充実に取り組みました。
初めに購入したのがこのコンバインですが、機械はどれもとにかく高価。
貯蓄だけで購入していくことは厳しく、さまざまな補助金を利用しながらそろえました。
機械を使うと、ランニングコストはかかるものの、作業効率が上がり、人件費の削減につながっています。
また、効率化により、圃場を拡大することもでき、比例して生産量も増加しました。
さらに、周辺の農家さんに作業を依頼されることも増えました。
農家の高齢化は目に見えて進んでおり、私の周りでは最高齢で92歳の人もいます。
体力的に農作業が厳しく、引退を考える声も耳にしますが、「自分の機械が壊れるまでは頑張りや」と日々励ましています。
私自身も「相棒」のコンバインによって、周囲の人の負担が減り、より長く農業に携わってもらえればと思っているので、これからも支え合いたいと思っています。
国は、今後農地を集約していく方針を示していますが、一つあたりの圃場が大きくなると、より大きな機械が必要になります。
機械もサイズが大きいほど高価なので、国や行政の支援が広がると助かります。
作業の機械化が進むと余力が生まれ、品質向上のための土づくりや水質の管理等に注力できます。
より上質でおいしいお米を届けるために、今後も周囲と協力しながら試行錯誤をしていきたいです。
市では、今年新たにICTやAI等の先端技術を活用し、新たな農業技術を導入するための補助等を始めました(8月末現在で締切)。
農業の担い手減少や進む高齢化による課題は、機械の力で解決可能な部分もあります。
導入には費用面でのハードルはありますが、ぜひ農政課まで相談してください。
新規就農者数の推移に着目すると、家族から農家を引き継いだ親元就農者(新規自営農業就農者)の数は年々減少していますが、土地や資金を独自に調達し、農業を始める独立就農者(新規参入者)の数はほぼ横ばい。
農園等に雇われる人(新規雇用就農者)の推移も含め、若年層で新たに農業の世界に飛び込む人が毎年一定数いることが分かります。
市では9月から「なら農業マネジメントアカデミー」を開講しました。
講師の佐川さんに、経営やマーケティングの視点で、農業を取り巻く課題の解決についてお話を聞きました。
佐川 友彦さん
企業勤めから一転、阿部梨園の経営改善インターンに従事し、そのまま就職。
成果を上げ、ファームサイド株式会社を起業。
現在は日本全国をめぐりながら、労働環境や販路拡大方法等、農業経営の改善提案を行う。
今から10年前、栃木の森にある梨農園で、経営改善に取り組み始めました。
当時、生産や売上は好調の一方、主力スタッフが辞めて人手不足に陥る等、課題を抱えていました。
私がまず着手したのは「掃除」。当時は書類や用具等が散らばり、雑然とした状態でした。
時間や労力、費用のかかる掃除から内情を把握し、改善の足掛かりを作りました。
その後は、経営者と二人三脚で熱く議論を交わしながら、問合せへの即日対応や陳列棚の見直し等、最終的に500件の業務改善を実施。
分業体制の取り入れやお客さまへの負担減等が功を奏してか注文も殺到し、個人客向けのブランド梨が完売するようになりました。
日々の努力ももちろんですが、経営面での危機感から、新しいことに挑戦しやすい職場環境が築かれ、それが結果につながったと思います。
ただし、このような内部改善だけでは限界があります。
生産技術の向上は前提ですが、生産品に「付加価値を付ける」ことは重要です。
例えば、工夫を凝らした紹介文や見栄えの良い写真、SNSの利用等。実は「婚活」と同じと私は思っています。
商品の正しいPRだけでなく、お客さまを理解し、そのニーズを満たすこと。
この顧客意識がスタッフに浸透することで、品質向上や栽培管理の改善にも生かされるのです。
独立就農者は、親元就農者に比べ、技術獲得や保有資産の面で不利に見えるかもしれません。
ただ、正しい戦略や意思決定により、強みや利益を伸ばすことはできます。
人口が周辺地域より多く、産業も活発な県庁所在地の特性を持つ奈良市は、人手や他産業のパートナー、地域内需要に恵まれています。
どちらの就農者もぜひ、早いうちに経営視点を身に着け、今後の農業を切り拓いてほしいと願っています。
さまざまな食と農の現場を紹介しましたが、今年その魅力に触れられる地産地消体験イベント(日帰り収穫体験ツアー等)を予定しています(後日お知らせします)。
また、奈良の農の魅力を農政課Instagram<外部リンク>(アカウント名:naracity_agri)でたっぷりと発信中。
市産農産物や大和野菜を使ったレシピ、イベント情報等が満載です。
ぜひ地産地消に触れて、奈良の食を楽しみましょう。
記事の内容のお問い合わせ(大和高原直送便について):月ヶ瀬行政センター地域振興課(電話番号:0743-92-0131)
記事の内容のお問い合わせ(上記以外について):農政課(電話番号:0742-34-5142)
しみんだよりに関するお問い合わせ:秘書広報課(電話番号:0742-34-4710)