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文化財火災の検証

更新日:2022年9月1日更新 印刷ページ表示

文化財火災(檜皮葺き屋根)の検証

檜皮火災タイトル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

檜皮葺(植物性屋根材)等の仕組み

檜(ひのき)檜皮葺

 日本古来 伝統技術

 2020年伝統建築工匠の技・木造建築物を受け継ぐための伝統技術としユネスコ無形文化遺産に登録され、この中に檜皮(ひわだ)葺・杮(こけら)葺 が含まれて居ます

   檜皮2   檜皮(1)

檜皮の採取と加工

  檜の皮を、剥がすところから始まり必要な大きさに整えます。

  檜皮採取  檜皮採取檜皮2

     檜皮加工  檜皮加工2

檜皮葺きの構造

檜皮説明

檜皮説明②

崇道天皇社本殿(重要文化財)飛び火による火災

 崇道天皇社本殿は、1623年に春日移しにより建てられた現存する建物では最古のものとされています。

  すどう天皇社    檜皮焼損

焼損部分の確認

  火災タイトル

  

檜皮葺屋根の燃焼実験

タイトル

檜皮葺燃焼実験の目的

 飛び火による火源から檜皮への着火燃焼状況の確認を共有し今後の火災戦略等に役立てることを目的とする。

燃焼実験に至るまでの経緯

 令和3年7月22日 紀寺町にて発生した建物火災により重要文化財 崇道天皇社本殿の檜皮葺屋根の一部が焼損しました。奈良市消防局、文化財防災センター、県文化財課等と文化財火災の検証を行っていく中で、檜皮葺の仕組みや消火戦術について研究検証し今後発生が予測される文化財火災への対応に役立てたいとの思いで燃焼実験と検証を行うこととなりました。忍辱山町の円城寺・紀寺町の崇道天皇社に出向し県の文化財課の協力を得て材料集めから始まり檜皮葺の燃焼実験に結びつきました

出火時の気象状況等について
  • 令和3年7月22日(木曜日)覚知17時28分、鎮火翌朝9時25分、消防隊出動車両延べ23車両出動
  • 出火時の気象状況、晴天、東の風5m、気温33度、湿度51%
  • 出火場所、工場兼住居より出火し周囲の建物約10軒へ飛び火及び延焼したもの
  • 崇道天皇社にあっては火災現場(出火建物)より約140mの地点、本殿檜皮葺き屋根に飛び火
第1回燃焼実験  
  • 日時 令和4年 2月24日 木曜日 13時~16時
  • 気象 天候 晴れ 3時間平均風速4.8m  3時間平均気温5.4度 平均的に北の風
  • 実施場所 奈良市消防局  
第2回燃焼実験
  • 日時 令和4年 3月15日 火曜日 13時30分~15時30分
  • 気象 天候 晴れ 2時間平均風速7.0m  2時間平均気温18.5度 平均的に北北東の風
  • 実施場所 奈良市消防局
第3回燃焼実験
  • 日時 令和4年 7月28日 木曜日 13時30分~16時00分
  • 気象 天候 晴れ 2時間平均風速3.3m 2時間平均気温34.3度 平均的に東の風
  • 実施場所 奈良市消防局 
参加機関

 奈良市消防局・国立文化財機構文化財防災センター・奈良県広域消防本部・生駒市消防本部・相楽中部消防本部・京都女子大学 鶴岡教授・早稲田大学 長谷見教授・奈良県文化財課・奈良市文化財課・宮内庁・皇宮警察本部京都護衛署・生駒市生涯学習課・春日大社・長久寺

  協 力  谷上社寺工業株式会社 (茨木県の鹿島神宮で35年間使われた檜皮等の提供) 
実験方法

  木炭を火源とし、檜皮葺上に置き檜皮の燃焼状況を確認する。

使用資器材

  檜皮葺(現地より引き上げてきたもの)・温度記録計(チノー・ハンディロガー)・熱画像直視装置・簡易風速計・木炭・オイルパン・バケツ水・ひしゃく・時計・ストップウォッチ・送風機・ホワイトボード・炭化深度計・メジャー

 使用資器材 実験会場 

 

燃焼実験開始   

  焼損12   

今回は、実際に檜皮の葺き替え時に取り換えた檜皮を提供いただき実験に使用しました。この使用した檜皮は、30年間使用されていたものです。青白くなっている部分は、コケ等が付着しているものです。燃焼実験は、縦横2cm程度の炭を微小火源と仮定し行いました。

 燃焼2 燃焼13

画像でも確認できるとおり風向きは画面の左から右です、檜皮葺にあっては崇道天皇社であった現場と同角度3寸勾配で実験しています。画面で説明すると右側が高く左側が低くなっています。風向き・勾配を考えると火種より右方向へ焼け込み位置が上がるものと思っていましたが、風向に関係なく微風状態なら左方向(下方)へ焼けが進みます。風に煽られ瞬間的に有炎燃焼を起こしますがすぐに無炎燃焼となりました。

 

   火源付近を拡大して説明 

 燃焼9     燃焼10

 燃焼11   燃焼12​​

 火種(火源)は、無炎燃焼の特徴の一つとして下方向に焼けこみ燻焼範囲が広がります。そして周囲が、隆起しはじめます。さらに、焼けこみが継続され下方の檜皮が反り返ってきます。次に、反り返りささくれた部分等に着火し有炎燃焼になりますが、一瞬で有炎燃焼はおさまります。そして無縁燃焼となり焼きこみが継続し、焼きこみ幅が広がり次に反り返った檜皮に同じような現象が起こり、これを繰り返されることにより、上方ではなく下方に焼けこみが移動していくと思慮することが出来ます。

無煙燃焼

 

次の写真は、1時間30分間放置した檜皮です焼けこみの深さ、幅ともに広がり無炎燃焼を継続し続けていますこのような状態になったとき強風・突風があると有炎燃焼となり燃え上がります。

燃焼(1)  

 

 ここまでは微風状態での実験です。では強風状態なら、どうでしょうか?

 

檜皮(1) 檜皮2

 最初は微風状態時と同様、風下(下方)側へ焼け込みを始めましたが、送風機で2m/sの送風をし観察し続けると風下(下方)への焼け込みは微風状態と同様ですが、風上(上方)側への焼け込みも始まりました。

燃焼実験データ
第3回燃焼実験データ(35年経過檜皮使用)
経過時間 表面温度 上層部温度 中層部温度 下層部温度 焼け込み幅✖縦
0 32度 30.5度 32.7度 32.2度 0
3分後 201度 453.1度 32.3度 31.9度 180mm✖100mm
6分後 380度 812.6度 41.7度 31.8度 230mm✖190mm
9分後 474度 496.7度 85.2度 31.4度 240mm✖460mm
12分後 385度 493.7度 207.1度 31.4度 240mm✖500mm
15分後 測定不能 536.8度 757.6度 37.7度 240mm✖500mm

グラフ

 総括

 檜皮葺(植物性屋根)の燃焼実験を行ったことで、多くのことを学ぶことが出来ました。檜皮葺が施工されて何年経つか、建っている場所の環境それに加え同じ平葺きであっても平面なのか角(湾曲部)なのか等いろいろな個体差がある。下方に向け焼けていくという基本法則の発見、風の強弱により基本法則が崩れ特徴的な変化が現れる。実験に参加した各団体の方々も、とても多くの発見に興味を持てたと思います。今後は文化財防災センターとともに、檜皮葺のほか杮葺、茅葺等の植物性屋根の燃焼実験に取り組み、その実験結果を多くの方々に広めていきたいと思います。そして消火方法であったり延焼防止の着眼点や火災の予防に必要な知識等も関係者へ発信できればと思います。今後とも一層の火災予防に取り組んでまいります。皆様のご協力をお願いいたします。

 


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