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奈良しみんだより令和2年10月号(テキスト版)2-5ページ 特集:伝統工芸のある暮らしを楽しむ。

更新日:2020年10月1日更新 印刷ページ表示

なら工藝館設立20周年記念企画 代々受け継がれる奈良のわざ

伝統工芸のある暮らしを楽しむ。
奈良墨や奈良晒(ならざらし)、赤膚焼(あかはだやき)等の伝統工芸は、奈良の長い歴史の中で育まれ、その技術と伝統の精神が現代にまで受け継がれてきました。
「伝統工芸」と聞くと、どこか日常から遠いところにあるものを想像しますが、実際は古来から人々の日々の暮らしに深く結びついて発展してきたものです。現代の奈良に生きる私たちも、伝統工芸を日常に取り入れ、使い、鑑賞する。そのような楽しみ方が気軽にできるのではないでしょうか。
伝統工芸を取り入れた暮らし方のヒントを探しに、市内でわざを究める職人と、わざの魅力を引き出す使い手のもとを訪ねました。

【本特集に関する問合せ】産業政策課(電話番号:34-4741)

 

赤膚焼

古くから陶器の産地として知られる西ノ京丘陵(現在の赤膚町)。安土桃山時代~江戸時代に、京都からもたらされた茶の湯の発展とともに、茶道具と茶器が盛んに作られました。今では滑らかな陶器に、特徴のある社寺や鹿等の素朴な「奈良絵」がついた、奈良固有の焼物となっています。

●赤膚山元窯8代目…古瀬 堯三
江戸時代に、大和郡山藩主、そして茶人としても名高い柳澤堯山の御用達として発展した、赤膚山元窯・古瀬堯三。8代目を引継ぎ現在11年目。
亡き父も制作していた工房で、ろくろを回しながら、赤膚焼の制作とその魅力を教えてくれた。
「赤膚焼は『奈良絵』が入った灰白色のものを想像されることが多いですが、純白のものや黒い艶のあるもの等さまざまです。同じ釉薬でも炎や煙の加減で風合いが変わります。ここでは家の裏山で取れた土で作品を作っています」
先代の伝統的な作風と異なり、赤膚焼の自由度を生かし、サイズや色味をお客さんのイメージに合わせながら新しい作品に挑戦している8代目。「今作っているのは、料亭や旅館等で使う海外宿泊客向けの食器。海外の人は自然で多彩な色合いを好むようですね」
窯は3基。それぞれ江戸後期、昭和20年代、昭和50年代に作られたもので、時代の違う窯が3つ現存するのは、日本でも非常に珍しいという。「第二次世界大戦中は、敵の戦闘機に軍事工場と間違われる恐れがあり、上空から火が見えないよう窯を焼いていたそうです」
幅広い形や色で作られる赤膚焼は、食の風景に非常に溶け込むと8代目は語る。「食材によってさまざまな使い方ができるため、和洋問わず食卓の美しい彩りを演出してくれます」
(写真)
時代の異なる3基の窯
どんな料理にも合う赤膚の皿
素朴な奈良絵が輝く春日鹿皿
自由度の高い焼物が引き立たせる彩りの美。

 

Column 奈良だからこそ生まれた、唯一無二の「奈良オリジナル」

「伝統産業発祥の地」と言われる奈良には、約1300年にも及ぶ工芸の歴史があります。
いまや全国から多くの観光客が訪れる「正倉院展」。舶来品のイメージが強い正倉院宝物ですが、近年の調査で日本で製作されたものが数多く含まれていることが分かってきました。約1300年前、この正倉院宝物を生み出した優れた技法は、中世に寺社と結びついて隆盛を極め、さらに「ならまち」の中で人々の生活に溶け込んでいくことによって、より深く奈良に根付いていきました。社寺の祭礼や茶の湯の発展とともに成熟していった伝統工芸は、奈良という特殊な土地だからこそ生まれた唯一無二の「奈良オリジナル」と言えるでしょう。
近年、後継者不足や新型コロナウイルス感染症の影響等で、伝統工芸の世界も苦境に立たされています。先人たちが連綿と紡いできた遺産を、絶やすことなく次世代にバトンタッチしていくことが、いま私たちに求められています。
(写真)正倉院にゆかりの深い聖武天皇が造ったとされる平城宮跡第二次大極殿跡

 

奈良晒

良質な高級麻織物で、江戸時代中期の奈良町では、住人の約9割が奈良晒に関係しているほどの主要な産業の1つでした。徳川幕府の御用達品として認められたことも奈良晒の名声を高めることになり、武家や町民のぜいたく品として、かみしもや夏のひとえものとして用いられました。

●奈良晒職人…岡井 大祐
1863年より続く岡井麻布商店の6代目店主。大学卒業後に織り師として家業を継ぐことを決心。伝統工芸の枠に捉われない商品を生み出す。

ライフスタイルを提案する。
「奈良晒はいろんなことができますよ」そう語る岡井さんにその魅力を尋ねた。「色が染まりやすいこと、そして乾燥しやすいことです。横糸に特徴があるんですが、これを作るのに複雑な技術が必要で、今では作り手がいないんです。今使っている横糸は代々作ってきてくれたものです」
その加工のしやすさから、新しいものづくりにも挑戦しているという。「最近だと、コロナ禍で何か社会貢献ができないかと思い、麻のマスクの生産を始めました。他には椅子の座面張りも。ふと思いついたら、従来の型にはまったもの以外も試しているんですよ」
自然あふれる田原の工房で、商品作りへのこだわりを話す岡井さん。「夕方の窓辺で1人の時間をコーヒーとともに。1つの商品を単体で見るのではなく、それを使うライフスタイルも提案したい。そんな思いからコーヒーフィルターを作りました。今後も代々培われてきたものを守りつつ、自らも柔軟に成長していきたいです」
(写真)奈良絵コースター、麻ふきん、手織り麻フィルター、奈良晒のマスク

 

一刀彫

元来「奈良人形」とも呼ばれ、平安末期にはじまる春日若宮おん祭で飾られた彩色の人形がその始まりとされています。安土・桃山期には時の権力者(信長・秀吉・家康)に各地から献上され、時代とともにその価値が芸術品の域まで高められることとなりました。

●奈良一刀彫作家…前田 浩幸
2006年に奈良伝統工芸後継者育成事業第1期生として、3年間の研修を受講。独創的な観点から、伝統的な作品以外にもオリジナルの作品を次々と手掛ける。

視覚的な豊かさを日々の生活に。
「自分の手ひとつで完成まで導けるようなことに取り組みたかった」小さい頃からものづくりが大好きで、21歳の時に思い切ってなら工藝館に相談に行ったことで、一刀彫作家の人生がスタート。師匠の神箸東林氏との出会いで始めた一刀彫は、彫刻の楽しさに加えて彩色の魅力も備えた、まさに自分にぴったりの工芸だったとのこと。
作品が生まれるまでを尋ねると、「生活の中で見たり聞いたりしたものを、木で表現したらどうなるのか、常に想像を膨らませながらアンテナをはっていますね。そうしたストックがふとした拍子で組み合わさった時、これだ!となるんです」
みなさんにも一刀彫を身近に感じてもらいたいと語る前田さん。「四季雛のような四季を感じられる作品もあるので、薄れつつある四季の感覚を視覚的に楽しんで欲しい。そして伝統工芸が今後も継承されていくためには、小・中学校等に置いてもらえると嬉しいですね。子どもの頃から当たり前にそばにあることで、感じられるものがあると思います」
(写真)作品「四季雛」「黒鬼と白鬼の囲碁対局」

 

遣唐使であった空海が持ち帰り、その後、興福寺二諦坊で製造され発展した南都墨。他の地域には類を見ない奈良の伝統産業の代表格です。日本の墨の約9割が奈良で製造され、平成30年には、市内で奈良筆に次いで2番目(県内で3番目)に国の「伝統的工芸品」に指定されました。

●妖怪書家…逢香
奈良教育大学書道科卒。幼い頃から自宅の書道教室で書に触れる。大学の授業で出会った江戸時代の「草双紙」に描かれた妖怪に興味を持ち、妖怪の墨絵を手掛けるようになる。昨年より奈良市観光大使として活動中。

白と黒の世界に思いを馳せる。
奈良墨をもっと身近に感じてもらえるよう各地で活動する「妖怪書家」の逢香さん。墨はあっても、石の硯が無い家庭も多い現代で、墨や筆との関わり方を使い手の目線で語ってくれた。「冠婚葬祭の時には、自宅・職場問わず自分の名前をのし袋等に書きますよね。今私のワークショップに参加する人も、名前だけはきれいに書きたい、と来られる人もいます。まず『墨を磨ること』が大変と感じるかもしれませんが、大きな水墨画作品でも少量の墨を磨るだけで描くことができます。意外と簡単に使えることをぜひ知ってもらいたいです」
最近描いた水墨画を前に、制作過程を教えてくれた。特殊な技法は使わず、書き心地の良い奈良筆(たぬきの毛)の他に、大きな絵はスプレーやほうき等でも描くとのこと。「誰もが使えるようなもので創作することで、墨ってこんなことができるんだと感じてもらいたいです。字を書くだけでなく創作活動にも幅広く使えることを伝えていきたいです」とほほえむ逢香さん。
以前、奈良墨と中国の墨を比べたことがあるという。「製造方法がそもそも違いますが、奈良墨は磨り心地が良く、香りも非常に良いですね。長年奈良で技術を継承してきた作り手のこだわりを感じます。水墨画は白と黒の濃淡のみの世界。墨と水の使い方によって立体感や色を想像してもらうという奥深さを感じることができますよ」と嬉しそうにその魅力を語った。
(写真)作品「坊やよい子だねんねしな」、平城京天平祭でのパフォーマンス、実際に使っている書道道具一式

 

Information 工芸に触れよう。今年で20周年の「なら工藝館」

作品の展示・実演、工芸品の販売、そして工芸体験ができる「なら工藝館」は、今年で創立20周年。今年も陶芸や織物、木工等各種工芸の体験教室では、多くの受講生が作品作りに励んでいます。
今回紹介した工芸以外に、奈良筆、奈良団扇、奈良漆器等も展示しています。また、Facebookでは工芸教室の様子や展示作品等を紹介中。実際になら工藝館を訪れて、もしくはWebで工芸を楽しみましょう。

・動画で見る匠の技
過去に奈良市で制作した工芸の特集動画を「奈良市動画チャンネル」で視聴できます。この時期から本格的に始まる墨造りや正倉院と関わりの深い螺鈿細工の奈良漆器の技等、希少な映像が盛りだくさんです。

なら工藝館 阿字万字町1-1 電話番号:27-0033