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近年、日本各地で台風や大雨による河川の氾濫等の災害が多発しています。奈良市でも警戒を怠らず、避難に対する備えをしておく必要があります。
また、今年は新型コロナウイルス感染症の流行により、避難でも「3密」を避ける等「新たな避難様式」への転換が求められています。
今月号では、その構築に向けた官・民・地域の取り組みを紹介します。
◆増加傾向にある「雨」と「警報」
奈良地方気象台で観測される降水量を5年間の平均で見ると、奈良市は年間降水量が増加傾向にあり、最大降水量も2019年では10年前と比べて1.8倍以上に膨らんでおり、一時的に激しい雨が降る傾向も見られます。
また、過去5年間の警報発表回数も急増しており、避難が必要となり得る状況が多くなってきていると言えます。
〇奈良市での警報発表回数(回)※大雨・洪水のみ
平成27年(2015年)
大雨の土砂災害…2
大雨の浸水害…0
洪水…0
合計…2
平成28年(2016年)
大雨の土砂災害…2
大雨の浸水害…4
洪水…4
合計…10
平成29年(2017年)
大雨の土砂災害…4
大雨の浸水害…5
洪水…6
合計…15
平成30年(2018年)
大雨の土砂災害…8
大雨の浸水害…5
洪水…4
合計…17
令和元年(2019年)
大雨の土砂災害…5
大雨の浸水害…3
洪水…4
合計…12
〇奈良市の年間降水量・最大降水量の推移気象庁データ(観測地点:奈良)
2009年
年間降水量…1,287ミリ
過去5年間の平均値…1,194ミリ
2010年
年間降水量…1,588ミリ
過去5年間の平均値…1,330ミリ
2011年
年間降水量…1,473ミリ
過去5年間の平均値…1,352ミリ
2012年
年間降水量…1,598ミリ
過去5年間の平均値…1,449ミリ
2013年
年間降水量…1,506ミリ
過去5年間の平均値…1,490ミリ
2014年
年間降水量…1,321ミリ
過去5年間の平均値…1,497ミリ
2015年
年間降水量…1,512ミリ
過去5年間の平均値…1,482ミリ
2016年
年間降水量…1,494ミリ
過去5年間の平均値…1,486ミリ
2017年
年間降水量…1,291ミリ
過去5年間の平均値…1,425ミリ
2018年
年間降水量…1,647ミリ
過去5年間の平均値…1,453ミリ
2019年
年間降水量…1,483ミリ
過去5年間の平均値…1,485ミリ
10年前と比べ、近年は増加傾向が見られます
〇最大降水量(24時間)の過去5年平均
2009年…74.6ミリ
2010年…82.1ミリ
2011年…79.2ミリ
2012年…92.5ミリ
2013年…110.2ミリ
2014年…121.9ミリ
2015年…118.9ミリ
2016年…122.8ミリ
2017年…137.6ミリ
2018年…144.6ミリ
2019年…137.9ミリ
2009年から比べて2019年は1.8倍以上
10年前と比べ、一時的に激しい雨が降る傾向も見られます
◆コロナ禍で避難にも課題が
その一方で、避難所にも問題が生じています。
市には現在、148か所の指定避難所(一次・二次)があり、その収容人数は、奈良盆地東縁断層帯地震の想定最大避難者数をカバーする51,327人を確保しています。しかし、1人当たりの占有面積を「2ヘイホウセンチメートル」で算出しているため、新型コロナウイルス感染予防のためのソーシャルディスタンス(人と人との距離)を考慮すると、収容人数は減少することになります。
避難所でのコロナ対策、収容人数減への対応等、防災にも新たな課題が生じています。
多発する異常気象やコロナ禍に備えて、市では新たな防災対策に取り組んでいます。民間企業や地域のみなさんとのさらなる協働を図り、直面する課題に対応できる防災対策を進めています。
●Community 地域
届出避難所制度
市の指定避難所とは別に、地域の自主的な開設・運営により集会所等を避難所として使用する「届出避難所」を、今年度から市に登録することになりました。避難所の収容人数減や地域の孤立への対策、またコロナ禍における分散避難の推進等にも大きな力となります。
●Public 行政
・指定避難所へのキーボックスの設置
施設の鍵を入れておくナンバー式キーボックスの指定避難所への設置を進めます。職員と地域の担当者でナンバーを共有しておくことで、緊急時の迅速かつスムーズな避難所開設をめざします。
・衛生用品等の配備・備蓄
マスク、アルコール消毒液、非接触式体温計の他、「密接」を避けるためのテント型間仕切り等を購入し、指定避難所への配備や防災倉庫での備蓄を進めます。
●Private 民間
宿泊施設(ホテル等)への避難利用支援制度
台風・豪雨等の際に、市在住の人が少額の自己負担で、ホテル等の空室を避難のために利用できる制度です。
1人千円で24時間まで利用できます。制度の適用は最長48時間まで。くわしくは、その都度市ホームページで発表します。
●制度適用のホテル一覧(8月15日時点)※五十音順
(1)春日ホテル
(2)かんぽの宿 奈良
(3)スーパーホテルLohasJR奈良駅
(4)ダイワロイヤルホテルD-PREMIUM奈良
(5)奈良ロイヤルホテル
(6)ホテルアジール・奈良
(7)ホテル尾花
(8)ホテル日航奈良
(9)ホテルニューわかさ
(10)ホテル・葉風泰夢
(11)ホテル花小路
(12)ホテルリガーレ春日野
くわしくは市ホームページに掲載
〇7月初旬の警報発表時に、本制度を利用した避難者を受け入れたホテル日航奈良の真柳総支配人と伊井総支配人室長にお話を伺いました。
・地元密着型ホテルの使命
当ホテルはJR奈良駅前の立地のため認知されやすく、客室数も市内最大の330室を備えています。私(総支配人)自身が以前、台風の多い沖縄で勤務していた際、行政と避難時の連携を密に行った経験や、ホテルの運営方針に「地元密着のホテル」を掲げていることから、この協力は私たちの使命ではないかと思い今回手を挙げました。
警報発表時は、制度適用直後にすぐに連絡があり、一人で避難して来られました。今回は解除までの時間が短かったのですが、天候や体調等を考慮して、そのまま一泊してもらい、感謝の言葉とともにチェックアウトされました。
・災害時もコロナ禍でも安心できるホテルに
普段から災害時の避難誘導等の訓練を行い、もしもの時に備えて飲料水の備蓄やAEDの設置を行っています。感染症対策では、「宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン」の内容を遵守し、清掃や消毒等の強化に取り組んでいます。宿泊者の来館後は、健康状況の把握と検温を行い、もし37.5度以上ある場合は、部屋の配置を離し、保健所と密接に連携を取って対応します。
今はコロナ禍で宿泊業界は厳しい状況ですが、行政や地元と協力し、地域の人々も安心して過ごせるホテルになればと思います。
地域の特性に合わせて、さまざまな取り組みを行う富雄地区と東里地区の地区自主防災防犯組織(以下、地区自主防)の活動についてインタビューを行いました。
Pick Up! 地区自主防とは…
おおむね小学校区の単位で結成され、「自分たちの地域は自分たちで守る」という意識のもと自主的に活動する組織です。防災に関しては、平常時は避難所運営マニュアルの作成や防災訓練の実施、住民に対する啓発活動等を通して「災害に強い地域づくり」に自主的に取り組み、災害時は各種団体と連携して避難所を開設・運営する等、地域の安全を守る非常に重要な役割を担っています。
普段から災害を意識する仕組み
〇平成27年から富雄の地区自主防をけん引する飯塚会長、上田副会長
22の自治会からなる富雄地区では、昔からの居住者とともに、若い世代の住民も増えています。会の設立当初から住民への防災意識の定着を目的に、災害時に「自分で身を守る備え(自助)」や「自治会内で協力する仕組み(共助)」が機能するよう啓発を行ってきました。
・近所の「気になる人」
7月の熊本の水害で全員が避難できた地域は、住民同士が顔見知りで、有事の際は誰を支援すべきかを意識する「村社会」がうまく機能していたと聞きます。若い世代が増えてきた富雄地区でも、都会で問題視される「孤立社会」を極力なくし、非常時に近隣の助け合いができるよう、平成30年から富雄独自の支援体制「気になる人作戦」を取り入れています。これは全住民から、一人暮らしの高齢者、老々介護の家庭等、自分が「近所で支援が必要だ」と考える「気になる人」を意識してもらうという方法です。リストアップした人を、「普段から緩やかな見守り対象者」として住民自身が改めて認識することで、災害時の発見の遅れを防ぎ、避難後の医療や介護の支援にもスムーズにつなげます。
現在では、避難勧告や警戒情報が出た際には、自治会、社会福祉協議会、民生委員等の多方面から、その人への連絡が取れるように組織化し、避難時の支援に移せる準備を整えることができました。
・防災活動は「無関心との戦い」
防災の基本は「自助」が7割を占めると言われています。どこかで災害が起こった直後は意識しますが、平常時は「無関心」なことが多い防災活動。これをいかに日常に定着させるかが重要です。5年間積み上げてきた備えを、各自治会や新たに入会した人々に伝え続け、少しでも「防災は個人で備え、地域が主役」という意識が住民に伝わればいいなと思います。
●富雄地区で行っている防災活動の一部を紹介
・避難者を守るテント
不特定多数の人が共同生活する避難所。特に女性が安心して着替えや子どもへの授乳等ができるよう、間仕切り型のテント50張を購入。1張で3?4人が生活できます。新型コロナウイルス感染症対策にも期待されます。
・災害もしもカード
避難時の手続きをスムーズにするために作成した携帯式のカード。持病や常備薬、血液型等の記入欄も設け、医療支援が必要な人を即座に割り出し、救護部隊や医療従事者へつなげます。
・避難マニュアルを独自に作成
個人向け、自治会向け等、用途に応じて作成しており、随時更新し配布しています。
「地域で乗り切る力」を育成
〇平成28年から地区自主防・自治連合会・地区社協の会長を兼任する東浦会長
・防災意識の変化
私の防災意識が大きく変わったきっかけは平成16年10月に発生した新潟県中越地震です。震源地に近い山古志村では、ライフラインが途絶え、すべての集落が孤立してしまったのを見て、当時他人事とは思えませんでした。東里地区は急傾斜地の崩落リスクのため、ハザードマップ上で警戒区域に指定されている所が多く存在し、市街地に通じている道路も限られているため、同じ状況に陥ってしまう恐れがあります。地域の特性を踏まえた防災対策が必要だと強く感じるようになりました。
・地域で乗り切る力
山間部で災害が発生した場合、「発生後の数日をいかにして自分たちで乗り切るか」が重要になります。山古志村で行政の救済の手が届いたのは、発生から丸2日後と言われています。私たちはその期間を乗り切るために、防災訓練では通常の消火・避難等の訓練に加え、炊き出し練習に重点を置き、作った炊き出し品を東里地区消防分団の協力を得て、各町の集会所まで配達する訓練を行っています。そのほか、「東里インフォメール」を導入し、防災情報をいち早く地域住民に向けて配信し、情報を共有できるようにしています。
また、ハード面では防災ラジオをはじめ、いざという時に自分の居場所を知らせるホイッスルやブザーの配布、施設へのAEDや薪を使うかまど等の配置も行いました。
・防災意識の継承
この地区には孤立する恐れのある集落が数世帯あります。今後安否情報をいち早く得るために、ドローンの導入を検討しています。
また、今春には各町の集会所を届出避難所(3ページ参照)として8か所設定しました。コロナ禍における分散避難を考える上でも、有効な手段だと思います。
近年、毎年のように大雨等の災害が続く中、こういった地域の防災意識を、今後はしっかりと後世に継承していけるよう、地域で団結していきたいと思います。
●「分散避難」に協力をお願いします
「避難」とは「安全を確保すること」であり、「避難所に行くこと」だけではありません。避難所で密集することによる感染リスクを防ぐため、分散避難に協力をお願いします。
分散避難の例
・自宅の2階等へ(垂直避難)
・友人・親戚宅等へ
・体育館や公民館等の避難所へ
・安全な場所での車中泊(高台や避難所の駐車場等)
・ホテル等を活用(3ページ参照)
●災害時の備えを再確認
非常持出袋
最初の1日をしのぐために必要なものです。できるだけ軽くコンパクトにまとめ、玄関等へ。
(目安:男性15キログラム、女性10キログラム、高齢者や子ども6キログラム)
非常持出袋に入れるもの
・緊急メモ…マイナンバーカードや免許証のコピー、口座番号や緊急連絡先等のメモ
・情報収集…携帯電話の予備電池、手回し式充電器、携帯ラジオ、筆記具、懐中電灯、ランタン
・食料等…非常食、飲料水、給水袋、簡易食器
・生活用品…厚手の手袋、アルミ製ブランケット、万能ナイフ、着替え、雨具・防寒具、携帯トイレ、トイレットペーパー、カイロ、スリッパ、歯ブラシ、タオル、ビニール袋
・救急用品…救急セット、常備薬、処方箋の控え
・その他…ホイッスル、紙おむつ、粉ミルク、生理用品等
感染予防等にも役立つ衛生用品の準備も
マスク、体温計、消毒液やウェットティッシュ
※ヘルメットや長靴等の準備も大切です。
日常備蓄
避難所への持ち出しや自宅で避難生活を送ることを想定し、1週間分以上の食料や生活用品等の備蓄に努めましょう。カセットコンロ(ボンベは10本程度)も有効です。
【本特集に関する問合せ】
危機管理課(電話番号:34ー4930)
新型コロナウイルス感染症に関する最新情報は市ホームページへ
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