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写真:登下校の見守りを地域で協力して行う富雄北小学校区。写真は幅が狭く車が多い道での見守りの様子の写真
事件や事故、いじめ問題など、子どもを取り巻く環境は、さまざまな危険の中にあります。
命の大切さを学び、命が守られていることを知ることは、子どもたちが大人になった時「命を守る社会」を築く礎になります。
今月号では、教育の中で最も大事な「子どもの命を守る」取り組みを、専門家の話やデータ等さまざまな視点を交えて紹介します。
警察庁発表の統計等から子どもが被害に遭う事件、事故を見る
※出典「児童・生徒の交通事故」平成30年警察庁発表による
子どもの歩行中交通事故の内訳は、登校中・下校中を合わせると全体の約1/3を占めており、通学路には多くの危険が潜んでいることを表しています。
子ども自身が交通安全に気をつけるとともに、周囲の大人も子どもの安全を守る意識を高める必要があります。
不審者情報件数(市の小中学生対象の事案)平成30年 ※不審者情報:声かけやつきまとい等の事案
多い月では1か月に23件の不審者情報がある。平均すると月11.3件発生。
平成30年分不審者情報(奈良県警察HP掲載データ)から抽出
警察がホームページに掲載した不審者情報のうち、奈良市の小中学生が対象となった事案は年間136件。
月平均にすると11.3件と、約3日に1件の頻度で情報が寄せられています。
子どもの安全を守るために、生活のさまざまな場面を見守る取り組みが必要です。
「地域全体で子どもたちを守り育てる」教育ビジョンを掲げる奈良市では、地域・学校・保護者が連携して安全への取り組みを展開しています。
富雄北小学校では、地域一体で子どもの命を守るため、平成16年から同校独自の見守り活動システムが構築され、現在に至るまで14年もの間、活動が継続されています。
同校の見守り活動は、ターミナル(集合場所)からリレー形式で登下校を見守るというものです。
子どもは家庭からは親の付き添いのもと、ターミナルに集まります。
そこからは地域ボランティアが立つ各見守りポイントを通っていきます。
見守りポイントは曲がり角など、子どもが視界から途切れる箇所に置かれているため、大人による見守りが途切れることはありません。(下図参照)
ターミナルごとに子どもたちの中でリーダーが決まっており、高学年の子どもが下の学年の子どもを守るようになっています。
大人の見守りを実感し、自らもその活動の一端を担うことで、子どもにも「命を守る」気持ちが受け継がれています。
同校の周囲では、学校の児童だけでなく、近隣住民や小学校を卒業した中高生とも挨拶を交わすボランティアや保護者の姿が見られます。
地域で定期的に会合し、見守りスポットの位置の再検討や、子どもにとっての危険な場所の洗い出し、そしてその対処を行うなど、日々改善を続ける見守り活動。
地域・学校・保護者は、「子どもの命を守る」という一つの目的に向かって連携することによって、地域全体に力強い繋がりを形作っています。
写真:地域ボランティアの活動で新しく設置された水路沿いの柵。大雨の時など、水路が増水し子どもが落ちると流される恐れがあったため、市に働きかけ設置されたもの。
活動が始まった当初から14年間、見守りを続ける地域ボランティアの飯塚晃弘さん、残田征紀さんにインタビューしました。
14年間活動を続けてきましたが、時には継続が危ぶまれることもありました。
子どもたち全員を見守るには、地域全体で協力する必要があり、それなりの負担があるからです。
そういった時には、「子どもを守る」という原点を思い出し、みんなで議論を重ねてきました。負担の大きな部分は方法を見直し、工夫をしてみんなが参加できる形に常に改善をしています。
見守り活動は、子どもたちに命の大切さを伝える場でもあります。
子どもが地域の担い手となった時、誰かを守れる大人に育ってくれていたら嬉しいですね。
平成29年度に通信機器を利用した登下校見守りシステムの導入を開始し、今年度から全市立小学校で稼働しています。
仕組みは、児童にICタグを無料で配布し、登下校の際に校門に設置した検知器が児童のICタグを感知することで、校門の通過時刻を学校と事業者の端末に記録するというもの。
希望する保護者には有料で通過時刻をメール配信します。
「人の垣根」による見守りに加え、通信機器を活用したシステムを導入することで、登下校の安全確保を効率的に行っています。
市の全中学校区に設置されている「地域教育協議会」の中で、防災教育がさかんな平城西中学校区。
こども園から中学校3年生までの11年間にわたる継続性ある防災教育を行っています。
平成28年度には、防災の優れた取り組みを表彰する消防庁主催の「第21回防災まちづくり大賞」で日本防火・防災協会長賞を受賞。
そのプログラムの中で、特徴的な二つの取り組みを紹介します。
写真:平成29年の防災セミナーの様子。災害時の応急手当等を実践を交えて学んだ。
奈良学園大学 人間教育学部准教授の松井典夫さん
【プロフィール】「子どもの安全」が専門。平成17年から9年間、大阪教育大学附属池田小学校に勤務し、学校安全主任を務める。平成26年から現職。著書に「どうすれば子どもたちのいのちは守れるのか」等
昨今の子どもを取り巻く環境の中でも大きな問題となっている「いじめ」。重大事態にも発展する恐れのある「いじめ」に関する、本市の現状や対策を伝えます。
文部科学省と奈良市発表の統計から見る
文部科学省(全国)、奈良市教育委員会(市内)の平成30年度調査による(H29年の全国小中学生数:約981万人、奈良市小中学生数:約2万3000人)
平成27、28年度に文部科学省から全国の学校へ「認知漏れがないか」の確認通知があり、いじめへの認識が深まりました。
軽微な事例も件数に加えるようになり、全国での認知件数は昨年度から約1.3倍に増加しています。
奈良市の件数は2倍以上に増えていますが、1,000人当たりの件数は全国が40.5件に対し、市は24.2件となっています。
このことを受け、学校や市教育委員会では、認知漏れがないかといじめを見逃さないよう務めています。
写真:身近な手段としてのSNSアプリ「STOP IT」。ポスターによる告知も行っている。
「いじめを許さない学校づくり」を目的に、市立中学校の生徒代表が学校の垣根を越えて協議する「ストップいじめ なら子どもサミット」を平成28年度から開催しています。
昨年度は、生徒アンケートの回答をもとに事前に生徒が主体となって「いじめが起こりやすい場面」の寸劇動画を撮影。
サミット本番で参加者が動画を観賞し、グループごとに当事者の気持ちを考えたり、周りの人はどのような行動ができるかを考え、発表を行いました。
また、同サミットや「奈良市子ども会議」の中で、いじめ相談窓口の広報を生徒自身で行うという提案があり、中学校の生徒から募ったデザインからポスター等を作成し、各学校に配布するという取り組みが今年度に実現しました。
いじめ防止の体制づくりが進むと同時に、生徒自身のいじめに対する意識も育まれています。
いじめ防止生徒指導課指導主事の松村智美さん
【プロフィール】小学校教員を経て今年度から現職
奈良市では、いじめ問題を重く捉え、平成28年度に教育委員会の中に「いじめ防止生徒指導課」を設置し、小・中学校・高等学校のいじめ問題を相談できる専門の職員を配置しています。
実際に、昨年9月にアプリを導入した後、相談件数が前年比で大幅に増加しています。
相談内容はいじめにとどまらず、友人関係の悩み等、幅広い相談があります。
SNSについては、電話やメールという直接的なコミュニケーションが苦手な子どもに合った手段であり、今後も子どものSOSをしっかり受け止め、いじめの早期発見と迅速な対応をしていきたいと思っています。
学校は、けんかやふざけあいであっても、嫌な思いをしている子どもの立場に立って、いじめかどうかを判断し、対応します。
市のいじめの認知件数は増加していますが、件数の急増は、児童・生徒が置かれている環境が急激に悪化しているのではなく、事態が深刻になる前に積極的に認知し、対応する動きが広がっているためと考えています。
どんな些細なことでも遠慮せず、相談してもらえれば嬉しく思います。