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昨年末、厚生労働省の公表した人口動態統計速報値で、令和6年の年間出生数が初めて70万人を割り、話題となりました。歯止めの利かない少子化の波。原因の一つに、コロナ禍での婚姻件数の下振れが影響しています。人とのつながりが希薄になり、出会いや結婚そのものの考え方にも大きな変化がもたらされました。今月号は社会の変遷によって変わりゆく、出会い・結婚支援の実情と市の支援を紹介します。
問合せ…子ども政策課(電話番号:0742-34-4792)
全国の婚姻件数を見てみましょう。そのピークは第2次婚姻ブームによる昭和47年の約110万組。その後、下降傾向となり、令和5年には半分以下の約47万組まで落ち込みました。特にコロナ禍の令和2年では、約7万組減少するという結果も見られます。
昭和47年…約110万組(ピーク)
令和元年…59万9007組
令和2年…52万5507組
令和5年…約47万組
出典…厚生労働省「令和5年人口動態統計」
この現状を受け、人口減少や後継者不足に対する取り組みが全国で始まっています。積極的に婚活支援を一つの事業として立ち上げる地方銀行や、福利厚生の一環として婚活をサポートする企業が登場。結婚自体は個人の行為ですが、少子高齢化を見据えて、社会が一体となって支え始める事例が出てきています。奈良市の生涯未婚率も増加傾向で、直近20年では3倍以上に跳ね上がっています。これを受け、本市では令和5年に「結婚と出産に関するアンケート調査」を実施しました。市内に住む独身者のうち、約3割が「一生結婚しない」と回答していますが、今後「いずれ結婚するつもり」に変わる可能性は、半数以上が「ある(可能性含む)」と答えています。また、その要因の一番多くは「結婚したいと思う相手が現れたとき」という結果となりました。
平成12年
男性…6.9パーセント
女性…5.2パーセント
平成17年
男性…9.9パーセント
女性…6.6パーセント
平成22年
男性…14.0パーセント
女性…9.9パーセント
平成27年
男性…18.1パーセント
女性…13.9パーセント
令和2年
男性…21.5パーセント
女性…17.0パーセント
出典…総務省「国勢調査」
いずれ結婚するつもり…68.8パーセント
一生しない…30.0パーセント
無回答…1.2パーセント
一生しない人が、いずれも結婚するつもりに変わる可能性
あるかも…49.4パーセント
たぶんない…25.3パーセント
ない…20.0パーセント
ある…5.3パーセント
出典…奈良市「2023年奈良市結婚と出産に関する意識調査報告書(令和5年11月)」
相手が見つからないだけで、結婚願望のある人がいる。この調査結果を基に、市は結婚を希望する人に機会を提供できるよう、出会い・結婚支援を行いました。
市は結婚支援事業として、「メタバース(仮想空間)」上で、2回の婚活イベントを行いました。メタバースは、いわばオンラインゲームのような空間。自分の分身(アバター)が自由に行動できる世界です。参加者はお互いの顔を知ることなく、メタバース内のイベントで結ばれ、その後、当人同士で対面する機会が訪れます。令和6年中は、イベント参加者30人中12組(24人)のカップルが成立。約8割が互いに顔を知ることなく、交際が始まりました。この高確率で成立する要因は何か、企画の考案者を取材しました。
1 アバターで婚活イベントに参加(カップルが成立したら)
2 アバター同士でデート(さらに関係が進めば…)
3 現実でデート
「自治体主催のメタバース婚活」は、今、各地の県庁・市役所等で広まり始めています。その発端はコロナ禍。婚活イベント等が中止になり、出会いの機会が激減しました。そのような中、仲人や結婚相談所での勤務経験のある高須さんが、メタバースを扱う企業に話を持ちかけ、自治体を巻き込んだのが始まりです。
○一般社団法人メタバース婚活協会 高須 美谷子さん
自身の婚活体験から、平成27年に結婚相談所を開設。30回にわたる婚活イベントを主催し、高いマッチング率で話題となる。令和4年に同協会を立ち上げ、行政とタッグを組む本事業を開始
元々結婚相談所で、顔や年収等のプロフィールで結婚相手を探す「条件婚活」の支援に携わっていた高須さん。その経験から「条件が合わなければ出会う機会すらないのはもったいない。多くの人が結ばれる仕組みを作りたい」という思いが浮かびます。ここから外見等の情報を排除し、会話から始まるメタバース上の付き合いに可能性を見出しました。
一般的な婚活イベントは、自己紹介・PRの時間が1~2分で、入れ替わり会話する方式ですが、互いの理解が深まらず、地元や趣味、職業等の話もままなりません。「共感により人は親密になりやすい」という傾向も踏まえ、メタバース婚活では、相手のことを深堀りできる対話時間を5~10分ほど設定しています。また、身分証明を必須とする他、参加者が事前に受検するパートナーシップ診断を、仲人が解析。イベント時には、その人となりを存分に伝えています。仲人の立場は、結婚相談所で行う服装・仕草等の「指導」と異なり、各人の性格や生まれ育った背景等から、生来持つ肯定的な部分をより引き出す「コーチング」に特化しています。実際にカップルが顔を合わすまでに、さまざまな手続きや仲人との複数回のやりとりがあるため、成りすまし・冷やかし等の心配もなく、対面時には既に親密であるケースが多く見られています。
参加者の多くは20~30代。結婚相談所や他の婚活イベントと比べて年齢層は低く、半数以上が初めて婚活をする人です。参加者からは「自治体主催だから安心して参加できた」という声も聞かれました。高須さんは「さまざまな自治体での実践で、県民・市民性等も把握でき、同郷者は相性が良い、という結果も見られています。結婚は地元を離れた人が、移住をも考える大きな機会。都会に出て地元に帰ってくるUターン移住等、自治体への支援も見据えています」と語りました。
時代に合わせて、出会いの方法も変化しました。
次は各年、全国の初婚同士の夫婦がどのように知り合ったかを割り出したグラフです。お見合いから恋愛結婚へと主流が徐々に切り替わった他、平成27年以降はインターネットの割合が急増。コロナ禍も相まって急激に増加し、お見合い結婚を上回りました。インターネットの割合の急増は、スマートフォンで利用できる「マッチングアプリ」の普及が要因です。
平成27年~令和2年
恋愛…約85パーセントから約75パーセント 大幅に減少
インターネット…約6パーセントから約15パーセント 大幅に増加
昭和10年~令和2年
お見合い…大幅に減少
出典…国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」
1 マッチングアプリに登録
2 相手を探す
3 相手に「いいね!」(アプローチ)
4 相手も「いいね!」でマッチング成立
5 メッセージのやりとり
6 実際に会う
マッチングアプリのサービス自体は平成24年から始まりましたが、注目されるようになったのはコロナ禍。外出自粛による出会いの機会の減少と、仕事や学びのリモート化の推進により、利用者が激増しました。令和6年の子ども家庭庁の調査では、15~39歳の既婚者の出会いのきっかけとして、全体のうち「アプリの利用」が最多の4分の1を占めました。
手軽な利用をうたう一方で、「実際の顔を見たことがない人に会うこと」への安全性が危惧されています。現在公開されているアプリは数百種類にも及び、千差万別。その安全性を測る1つの指標として、国の少子化対策会議から設立された「結婚相手紹介サービス業認証機構★」により、「インターネット型結婚相手紹介サービス業認証制度」が令和4年に開始されました。個人情報の保護やサービスの信頼性等が、公平・中立に審査されています。その基準には、関係法令の遵守やサービス品質、トラブル回避のための常時監視体制等、10以上もの細かな規定があります。令和7年1月現在、8つのアプリが認証されています。
★NPO法人 結婚相手紹介サービス業認証機構
平成18年の国の少子化対策会議で「結婚相談業等に関する認証制度の創設」が盛り込まれたことを受け、平成21年3月に設立された中立・公平な認証機構
・出会いの幅が大きく広がる
日常生活で出会うことのない人と知り合える。より理想の結婚相手を発見できる可能性が高まる
・価値観のすり合わせが事前にできる機能(各アプリにより異なる。下記は一例)
対面で伝えづらい本音(連絡の頻度、金銭感覚等)を、非公開で設定。AIが本音の一致する相手を探し、おすすめの相手が表示される仕様。付き合う前から、価値観を合わせておくことで、長い関係性の構築につながる
市では若者世代へのアプリの普及を受け、安全な利用方法・理想の相手に出会うコツ等に関するオンラインセミナーを2回開催しました。
セミナーでは、奈良県警察とも連携し、安全に配慮しながら、結婚を望む人への「出会いの支援」を行っています。
結婚・出会いは個人の自由な行為です。ただ、それらを取り巻く環境が大きく変わり、さまざまな課題が発生したことも見えてきました。周囲や自治体はどのような支援ができるのでしょうか、各種データを元に専門家に話を聞きました。
○株式会社ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子さん
子ども家庭庁・総務省有識者委員、地方自治体・法人等の少子化対策・結婚支援データ活用アドバイザー等を務める
まず奈良県の「少子化」と「未婚化」の現状を見ていきましょう。婚姻件数ピーク時の昭和47年と令和4年の出生数を比べると、半世紀で4割以下に減少し、婚姻件数も同じように落ち込んでいます。一方で、1組あたりの子どもの数は、1.6~1.8人程度。若干微減するものの、大きくは変わりません。全国を見ても状況は同じであり、ここから出生数が激減している原因は、カップルの数の減少から生じていると読み取れます。そのため、少子化対策として、子育て世帯支援のみを考えるのでなく、結婚を希望する人への支援も重要となっています。
昭和47年(1972年)
出生数(A)…19,123人
婚姻件数(B)…10,204件
1組当たりの子どもの数(A/B)…1.88人
平成4年(1992年)
出生数(A)…13,328人
婚姻件数(B)…8,037件
1組当たりの子どもの数(A/B)…1.66人
令和4年(2022年)
出生数(A)…7,315人
婚姻件数(B)…4,205件
1組当たりの子どもの数(A/B)…1.74人
※昭和47年…第二次ベビーブーム期
平成4年…バブル崩壊期 の例として抽出
出典…奈良県「人口動態総覧」から作成
世代により異なる結婚観を、周囲が理解することも、現代の若者の結婚支援につながります。例えば昭和終盤から平成初期(バブル経済期~崩壊期)は、男女雇用機会均等法や育児休業法が施行され、女性の社会進出が増えた時代です。それ以前は、男性限定職種の存在や、女性は出産後の就業が困難である等、そのため男性に求める収入は高くなる風潮でした。ただ、法整備により「共働き」が主流になる時代が到来すると、夫婦それぞれの収入や家事分担等は大きく変わります。それを目の当たりにした子世代の通念ともなり、結婚相手に求めるもの(互いの年収や家事・育児への参画等)はひと昔前と大きく異なるのです。
奈良市固有の特徴として、若者世代(特に20~24歳)の転出超過(転出数>転入数)が挙げられます。逆に同じ年代で、転入超過(転出数<転入数)が日本一となる地域は、東京特別区部の61,174人(総務省統計局「令和5年住民基本台帳人口移動報告 年報」)。大学等の卒業・就職を機に上京する層がメインです。東京圏と地方にはやはり圧倒的な差があり、東京一極に集中する構造は強まる傾向にあります。
ただ、全国の初婚同士婚のピークを迎える年齢は、26~27歳。その数年前に大都市圏に人が流れるため、地方は若年雇用や移住時の結婚支援の強化を、早急に考える必要が生じます。出会いがあり、安定して長く働ける企業が多数ある等、数十年後もまちを支える世代から選ばれる仕組みづくりが必要です。
あくまでも結婚は個人の自由です。ただ、結婚した人・結婚しない人・結婚を希望する人、それぞれに異なる支援体制を整えなくては、将来の担い手を失うことにもなります。今回新たに結婚支援に踏み切った奈良市は、その解決の第一歩を踏み出しています。ぜひ今後も、市を超えて広域で支援の輪を広げていただければと思っています。
20~24歳…就職機の若者が大きく転出超過(702人減)
25~29歳…初婚同士婚の最高値の年齢も転出超過(184人減)
出展…総務省統計局「令和5年住民基本台帳人口移動報告 年報」
男性
最高値…27歳(20,807人)
平均値…31歳(12,771人)
女性
最高値…26歳(23,466人)
平均値…30歳(14,837人)