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奈良しみんだより令和5年8月号(テキスト版)2-5ページ 特集:

更新日:2023年8月1日更新 印刷ページ表示

めぐる。
限りある資源を紡ぐために

今年で25周年を迎える「古都奈良の文化財」の世界遺産登録。そのうち、春日大社と一体のものとして文化遺産とされた春日山原始林は、千年以上も前から人の手により大切に保護されてきました。今月号では、歴史ある奈良の雄大な自然の保全活動から、市のごみ・環境問題等を取り上げます。大自然の遺産を有するまちで暮らす私たちにできることを、一緒に考えてみませんか。
春日山原始林:平安時代、仁明天皇の勅命により狩猟や伐採が禁止され、春日大社の聖域として保護されてきた鎮守の森。都市の近郊で今も原生の姿を残す様が珍しく、1955年には国の特別天然記念物に指定。世界遺産の登録に際しては、春日大社と一体となった文化的景観が評価され、文化遺産に含まれる。800余りの植物種や多くの昆虫、鳥類等が生息

 

みんなで森の課題を考える

市の中心市街地からもその姿が見える春日山原始林。そこで今、ある異変が起きています。人の手で守られ続けてきたこの森から、環境問題をどう考えるか。原始林の保全活動や普及啓発を長年行う、杉山さんにお話を聞きました。
〇インタビュー
春日山原始林を未来へつなぐ会 事務局長 杉山 拓次さん
2014年に東京から奈良に移住。同会の設立に携わり、事務局長を務める。会の活動の他、個人の活動として、散策ガイドや森を感じるプログラム等も実施

森と、シカと、人と生きる。

春日山の大きな木や、雪の中に落ちている木の実。移住後、春日山でのフィールドワークの際に見た景色に惹かれ、保全活動や原始林の魅力を伝える活動を行っています。この森はさまざまな課題もありますが、そのあり方も含めて奈良らしいと感じています。
一番の課題は「シカとの共生」。春日山を構成するシイやカシ(どんぐりの木)等は今、厳しい環境に置かれています。それは、春日山で増えたシカ等の野生動物が、次世代の木の芽を食べることに起因します。「木が倒れると、光が差して、木々が芽生え成長する」という循環で森は保たれますが、それがうまく機能しない状態が続いています。ナラ枯れや外来種、台風による倒木等の問題もありますが、これらは次の木が育つ環境があれば危惧するレベルも下がります。
奈良のシカは多くの人にとって大切な存在であり、根本的な解決は簡単ではありません。シカと森がどう共生するか、そのために奈良に住む我々ができることは何か、という答えが出にくい問題を、みんなで考えることこそが、この春日山の課題の興味深い点だと私は感じています。

森の異変は私たちの生活にも結びつく

気候変動による異常気象は、森にも影響を及ぼします。2018年の大きな台風では、崩落によって数か月間、遊歩道が通行止めになりました。今年6月の豪雨でも、小さな土砂崩れが起きています。通常の雨量なら葉が雨除けになりますが、局所的な豪雨は葉で遮れなかった大量の雨が地面に落ち、土を洗い流します。これにより木の根が露出し、土砂崩れや倒木が発生します。小さな草の根があれば地面の水分は吸収されますが、野生動物が草を食べることで、より起こりやすくなっているのです。こうして流れた土砂は佐保川や能登川等に流れ、農業用水への影響や洪水にも発展します。このように森の異変は、私たちの生活とどこかでつながっているのです。

大事なのは人が「関わり続ける」こと

持続可能な自然環境は、自然に任せるだけでは実現できません。春日山は元々春日大社が守り、明治維新後に国有になったことを経て、大正時代には天然記念物への指定、今では世界遺産にもなりました。この地を神域として守った文化や天然記念物の指定に向け調査に尽力した人、道路開発の反対運動を行った人等、たくさんの人の手で守られてきた森です。
長い歴史の中で絶えず人が関わり続けてきたからこそ残った森。その時々で関わり方は変わりますし、何が正解かは分かりません。さまざまな考えの人と一つでも歩み寄りながら、日々試行錯誤を続けることが、環境に関わる活動の根本だと思っています。日々の暮らしの中でふと眺めるこの森を、ぜひ知って、一緒に考えてもらえたらうれしいです。

春日山原始林を未来へつなぐ会の活動

・県と連携し、植物が野生動物から食べられるのを防ぐ保護柵の破損等を巡視
・ナラ枯れ対策として、林内にトラップを設置し、原因となる虫を捕獲。発生状況を確認
・倒木した樹齢600年の大杉を使ったアートプロジェクトを実施。森に来なくても森を知る・伝える・考える機会の提供も

 

ごみを「新しい資源」として考えること。

身近な環境問題を考える上で、大きく暮らしと結びつくごみの問題。市では現在、環境清美工場の焼却炉の老朽化や、ごみから新たなエネルギーを生み出す全国の動き等をもとに、新しいクリーンセンター建設に向けて、議論を進めています。

ごみ焼却量は減少傾向、一方で課題も。

10年間でごみの焼却処理量は減少しています。年間排出量に換算すると1人あたり約30kg減少しています。
一方で、市のごみ焼却炉は、昭和60年までに4基建設され、今なお稼働中です。最も古い炉は40年以上のもので、全国の平均稼働年数30.5年を大幅に超過しているため、さらなるごみ焼却処理量の削減が必要になります。また、焼却時に発生する温室効果ガスの削減も今後の課題となっています。

奈良市のごみ焼却処理量の推移

2013年度…96,100トン
2014年度…93,601トン
2015年度…88,677トン
2016年度…85,618トン
2017年度…85,583トン
2018年度…83,977トン
2019年度…83,839トン
2020年度…80,214トン
2021年度…80,567トン
2022年度…78,342トン
・10年間で約2割減少

 CO2ゼロの世界に向けて

現在、国の方針として目指す「脱炭素社会」。2050年までに温室効果ガス(二酸化炭素やメタン等)の排出量を実質ゼロにするための取り組みが、全国各地で行われています。奈良市は5月に、環境省から脱炭素社会への移行や再生可能エネルギーを推進する
「重点対策加速化事業」に選定されました。令和9年度までの5年間、公共施設や事業者向けに、太陽光発電等の再エネ設備や省エネ設備の導入を進めていきます。

環境に配慮した施設を作るために

他の自治体でも同様の問題が起こっており、新施設の建設に踏み出しています。中でも、焼却時のエネルギーを電力として利用する「エネルギーセンター」や、ごみを発酵させて新たな資源を生み出す「バイオガス施設」等が注目を集めています。市でも先進事例の視察等を行い、新施設基本構想の策定に
あたって参考にしています。

バイオガスとは?
動植物等から生まれた資源を、微生物が分解することで発生するガス

脱焼却。生ごみが新たな資源に
宮城県南三陸町のバイオガス施設

豊かな自然に囲まれ、地産地消の文化が根付く南三陸町。東日本大震災により大きな被害を受けましたが、復興とともに、生ごみを資源に利用する取り組みを進めました。2015年にはバイオガス施設「南三陸BIO」が完成し、リサイクルへの大きな一歩を踏み出すことに。これまで不要だった生ごみが100%、電力や農作物を育てる資源に生まれ変わり、南三陸町を循環しています。

生ごみから新たな資源に

〇家庭からの排出時に生ごみを分別(回収は週2回)
〇バイオガス施設南三陸BIOで微生物が生ごみを分解。メタンガスと液体肥料に。
・メタンガスはBIOの電力として使用し、余剰分は売電。
・液体肥料は誰でも使える肥料に。これで育てられたお米は、食の循環を表す「めぐりん米」と命名され、町民・観光客から高評価。液体肥料で育った農作物を収穫し、その後調理され、そのくず等が新たな資源になり巡る。

 

江戸時代から受け継ぐ「もったいない」精神
食品ロスが紙に生まれ変わる

市内の企業でも資源循環への取り組みが加速しています。食べられなくなったお米を使った紙「kome-kami」を開発したペーパルは、「食品ロス」と「紙」という資源を合わせることで、新たな価値を生み出しています。企業が見据える環境課題はどのようなものなのか。kome-kamiの生みの親である矢田さんにお話を聞きました。

〇インタビュー
株式会社ペーパル 取締役 矢田 和也さん
NARA STAR PROJECT 5期生。市への移住と起業を支援する市の取り組み「ならわい」の参加企業。
「紙」という視点から環境に配慮した取り組みを実践。食品ロスを使った紙を開発し、その売上の一部をフードバンクに還元する仕組みを構築

江戸時代の紙づくりがヒントに

紙を扱うため、元々環境問題の解決にも取り組んでいたところ、いつしかフードロスの削減に注目するようになりました。フードロスを価値に変える方法を調べるうちに、たどり着いたのは「江戸時代に、お米が紙に使われていた」という歴史です。再生紙にお米を入れて白くすることや、筆のにじみ防止に使われていたこと等から、廃棄米とパルプを混ぜ合わせる発想が生まれました。開発するうち、江戸時代の人々が大切にした「もったいない」文化も合わせて普及したいという思いも強くなりました。

商品がつなぐ新製法

さらなるフードロス削減に向けて、お米以外を原料とした紙づくりにも挑戦しました。ニンジンを原料とした「vegi-kami」は、kome-kamiのユーザー企業から「工場でニンジンの端材が出るから有効活用しないか」と声をかけてもらったのがきっかけで始まりました。原料に合わせて作り方も異なるため、試行錯誤の繰り返しでしたが、ニンジン特有のつぶつぶ感を出しつつ、デザイン性も高めることに成功しました。フードロス削減への思いがつないだ出会いだと感じています。

たとえ小さな選択でもエコにつながる

私たちの日常生活の中でも、環境に優しい取り組みはできると思います。例えば、似た商品の中からどれを買うべきか迷った時、環境に優しいものを選ぶ。そうする人が増えれば、環境に優しい商品が流通し、関連する商品を作る企業の成長にもつながります。国の脱炭素の取り組みを受け、これからはエコにやさしい新商品がどんどん生まれると思います。作り手としては、小さな選択をする時にでも、ふと環境のことを考えてもらえたらうれしいです。

身近にエコ活動をしてみましょう

「使用済みのハブラシ」も資源の循環に
各家庭の使用済みハブラシを新たな資源に変える、企業主体の「ハブラシ・リサイクルプログラム」に奈良市も参加しています。回収方法は、軽く洗って乾燥させたハブラシを、回収ボックスに入れるだけ。掃除に使用したものも回収できます。捨てる前にリサイクルしてみませんか。
・市庁舎1階連絡通路や環境清美工場、廃棄物対策課で回収しています(その他、各種電池や使用済小型家電も回収)
・使い捨てハブラシ等、回収できないものもあります。

【問合せ】市のごみ処理施設の今後について:クリーンセンター建設推進課(電話番号:0742-34-5314)、重点対策加速化事業について:環境政策課(電話番号:0742-34-5642)