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全国的に進む人口・出生率の減少は、わたしたちの生活にも影響を及ぼしています。
空き家問題や地域運営に関する課題解消も見据えつつ、市では若者や子育て世帯の移住支援に力を入れており、実際にその成果が見え始めています。
今月号では、「移住者×地域コミュニティ」の交流が生まれている場所を取材。
そこで見えてきたのは、移住者と在住者の交流が醸し出す「暖かな地域コミュニティ」でした。
【問合せ】秘書広報課移住定住促進係(電話番号:0742ー︎93ー3470)
平成31年から市では、転出者より転入者の人口が多い「転入超過」の状態が続いています。転入者と転出者の差である社会増減数は令和4年に+842人となり、比較可能な統計データがある平成25年以降、最大のプラス値となりました。ここ数年で急激に増えており、データ上でも市に注目が集まっていることが分かります。
人口減少により、地域の担い手不足や空き家の増、交通サービスの縮小等、さまざまな問題が全国で取り上げられていますが、その打開策の1つとなる「移住者を増やす支援」。市でも専門部署の設置により、これまで以上に力を入れていきます。
過去10年間の市の社会増減数(総数)
※住民基本台帳から作成。各年の値は1〜12月の合計数
・平成25年
転入者数…13,205人
転出者数…13,309人
社会増減数…マイナス104人
・平成26年
転入者数…12,855人
転出者数…13,146人
社会増減数…マイナス291人
・平成27年
転入者数…12,866人
転出者数…13,694人
社会増減数…マイナス828人
・平成28年
転入者数…12,429人
転出者数…12,860人
社会増減数…マイナス431人
・平成29年
転入者数…12,744人
転出者数…12,946人
社会増減数…マイナス202人
・平成30年
転入者数…12,480人
転出者数…12,741人
社会増減数…マイナス261人
・平成31年
転入者数…12,823人
転出者数…12,439人
社会増減数…プラス384人
・令和2年
転入者数…12,128人
転出者数…11,830人
社会増減数…プラス298人
・令和3年
転入者数…11,967人
転出者数…11,535人
社会増減数…プラス432人
・令和4年
転入者数…12,525人
転出者数…11,683人
社会増減数…プラス842人(過去10年間で最大のプラス)
まずは「奈良市への移住」によって、実際にどのような交流が生まれているか、次のページから事例を上げていきます。
平城宮跡のはずれにある築50年の家「toi」。大都市圏から市に移住してきた編集者・大越はじめさん(東京都出身)と、作家・しまだあやさん(大阪府出身)の生活拠点です。101畳ある空間の一部を、主に10・20代へ開放するという取り組みをしています。0〜65歳までのさまざまな世代の人が訪れるtoi。そこから生まれた「つながり」のお話を2人に聞きました。
開放のきっかけは、わたし(大越)のもとでインターンをしていた高校生・岡本輝起さんの一言。「秘密基地のようなフリースペースをつくり、同世代が気軽に立ち寄れる場所にしたい」と相談を受けて、「じゃあ、うちの家を使ってみる?二人暮らしには持て余してるんよね」とわたしたちから提案。岡本さんの連れてきた友達が、そのまた友達を呼ぶことで、地域の人が自由に集う、不思議な家になりました。
家を開放することで、わたしたち自身も、地域の人たちに何度も助けられています。寒さが厳しい冬には、わたしたちの出張中に水漏れが発生するという災難が。しかし、タイミング良く遊びに訪れたご近所さんが対応してくれたおかげで、大事に至ることがなかったんです。また、台風でトタンがめくれて困っていると、遊びに来た大工さんが応急処置をしてくれました。隣町の農家さんは、「庭用にどうぞ」とテーブルを作って、寄贈してくれたんです。コロナ禍にマスクや消毒液が品薄だった時には、よく遊びに来る学生のご家族がおすそ分けをしてくれたこともありました。
もともと奈良には、地縁や血縁がありませんでしたが、家を開放することで、ゆるやかなつながりが生まれ、今やホームタウンになっています。
toiに訪れる人は、キャリアも過ごし方もさまざま。例えば、奈良への移住を考える22歳が、30年奈良に住む人と庭でたき火をしながら話したり。「コロナ禍でキャンパスに通えなくて…」という大学生がオンライン授業を受ける場所にしたり。就活に悩む学生に向けて、大人たちが自分の仕事内容を話すイベントが開かれたり。世代を超えて、まちでの暮らしや働き方を深める時間が生まれています。
また、関東から訪れた学生も、短期滞在する中で「就職、奈良にしようかな」という言葉が。気づくと、toiで出会った人たちが4組ほどご近所さんになっていました。
toiが始まって、もうすぐ7年目。高校生や大学生が社会人になり、共に仕事をする機会も生まれています。例えば、大学生の西岡紗那さんは、toiの空間を活用し、居場所兼学習塾を始めています。Webサイトは、toiを訪れる人たちで制作。さらに、学習塾に勤めるご近所さんが運営の相談に乗ったり…。
県外就業率が高い奈良県。だからこそ、10・20代が仕事を通じて地元に関わる機会が大切だと考えています。
〇あこさん(大学生)
1年間ほど、大阪からtoiへ通っていました。今は、奈良ではじめての一人暮らしをしています。慣れないことも多いのですが、toiを通じて出会った友達がたくさんいるので、一人で抱えることなく、誰かに相談できます。
〇みほさん(主婦)
小学生だった長男がtoiを見つけて、「めっちゃ行きたい!」と言ったのがはじまり。今では、toiの畑に野菜を植えたり、みんなでごはん会をしたり。家族でも、一人でも、気軽に立ち寄れる場所になっています。
移住の理由は人それぞれ。所属する会社の転勤等が、突然起こることもあります。今年4月にオープンした明治わらべこども園(旧明治幼稚園)では、3人の先生が県外から移住し、園の立ち上げに携わりました。そこでは、地域のみなさんとの新しい縁を築きながら、新園の立ち上げを行う、暖かなつながりがみられました。
園長の大久保さん(東京都出身)、
主幹教諭の前川さん・新井田さん(北海道出身)
明治わらべこども園は、市が進める市立幼保施設の民営化により、「清心福祉会」が今春から運営
昨秋、園長として赴任することになった大久保さん。今年の1月から奈良市に単身赴任をしながら、週末のみ家族の住む東京へと帰る生活になりました。「新天地で新しい事業に携わった経験はあるものの、初の関西での生活がバタバタと決まりました」と当時を振り返ります。
不安な時に支えてくれたのが、主幹教諭の2人。元々北海道で保育士として働く予定が、応援スタッフとして園を来訪後、そのまま大久保さんの推薦もあり、2人とも市に単身赴任することに。「深夜までの新園の準備は大変でしたが、『移住者チーム』として助け合いながら、ようやく開園にこぎ着けました。今では仕事の合間に、まちのスポットやおいしい奈良の食を教え合いながら、新生活も楽しんでいます」
「移住後、とても驚いたことがあります」と話す大久保さん。それは地域の人たちの園に対する熱い思い。「この園の卒園生でもある地域のみなさんは、この場所をとても大切に考えてくださっています。園児募集時には『チラシ1000枚持っておいで、配るから』というお声も。現在通園する子どもたちは28人。ご協力がなければ、きっと3か月でここまでは集まらなかったでしょう」と振り返ります。
「新参の私たちですが、こんなにも心強い人々に支えられていると安心しますし、地域に支えられての園であることをひしひしと感じます。まだ始まったばかりですが、子どもだけでなく、保護者も来るのが楽しいと思ってもらえる園にしていきたいです。地域のみなさんと一緒にその環境を作れるよう、これから頑張りたいです」と期待を込めながら話しました。
〇自治連合会長の野口さん、
〇女性防災クラブ会長の伊藤さん、
〇民生・児童委員の松岡さん
元々、各団体の結束力が強い明治地区。運営を担う「明治地区自治協議会」では、公立園の時から、園やPTAも参画し、子どもたちと地域がつながる仕組みづくりを行ってきました。市から民間法人の運営に変わりましたが、園と地域で話し合いを数回重ね、今では安心した連携体制が築けています。園と一緒に開催する防火訓練等を通じ、いざという時の備えを子どもたちに教えつつ、その保護者や地区内に住む人々とのつながりを強めていきたいです。
現在、若い世代向けの新しいアパートが、地区内でも数か所建設中です。今後はこの園に通う子どもたちも増えるでしょう。自分や息子たちも通った思い入れのある園。これからは「次の子どもたちのふるさとづくり」をしながら、新しい移住者と一緒に、より住みやすい地域にしていければと思っています。
〇新井田さん
奈良のまちはきれいで、静かで、ゆったりしています。ちょっと離れると自然があるのがうれしいです。忙しく仕事に追われていても、北海道の風景と似ているところもあり、地元を思い出してホッとしました。
〇前川さん
毎日子どもたちの奈良弁に癒やされています。生の「なんでやねん」を初めて聞きました。驚いたのは町家。教科書でしか知らなかった風格の家屋が急に現れたので、まるで江戸時代にタイムトリップしたような気分でした。
2つの事例を紹介しましたが、どちらも移住者と在住者・地域との交流により、新たなつながりが生まれています。移住者が今、奈良市を選んでいる理由の1つとして、人や地域が醸し出す暖かさ等が挙げられるかもしれません。その形のない雰囲気を移住希望者が事前に感じ取れるよう、市では現在「お試し移住支援制度」を進めています。
「移住をしたいけれど、いきなりはハードルが高い」、「仕事や住まいを十分に検討できる余裕が欲しい」等の悩みを抱える人に対し、次の一歩を応援する制度です。小規模宿泊施設で滞在しながら、観光だけでは探れない「奈良で暮らす」体験をサポートします(支援金等の補助あり)。
また、お試し移住を実際に利用した人の約4割が後日実際に移住を決め、約9割の移住意欲が向上したという結果も出ています。
●お試し移住後の移住意欲
回答数:31組
回答期間:令和4年4月〜令和5年3月
移住を決めた…37パーセント
移住への意欲が高まった…34パーセント
時期未定だがいつか移住を検討…20パーセント
移住を考え直した…9パーセント
9割の人が奈良市への移住を前向きに検討!
●移住後の満足度
回答数:337人
回答期間:令和4年12月〜令和5年2月
とても満足…46パーセント
満足…45パーセント
どちらとも言えない…6パーセント
やや不満…2パーセント
不満…1パーセント
9割以上の人が移住後の暮らしに満足しています!
●移住して良かったまちの良さ
・カフェや雑貨屋等、個人で商売をしている人が多く、起業の背景や思い、ストーリーを聞くのがとても楽しい(愛知県から移住・40代女性)
・奈良が好きだからという人が一定数いて、地域のボランティア活動等が活発な印象がある(大阪府から移住・30代男性)
・人も暖かく、子どもも地域で育てていく空気感があり、とても居心地がいい(東京都から移住・30代女性)
・歴史が身近で、教科書でしか見たことのなかった場所が、すぐ近くにあることが魅力的。子どもたちとそんな場所に行けることがとても贅沢に感じる(青森県から移住・20代女性)
奈良市へ移住される方がよく話されるのは「奈良の雰囲気がとても好き」ということです。歴史遺産やアクセスの良さ、すてきな街並みはもちろん、個性豊かなお店や拠点等の「良いコミュニティ」があること。それが奈良の良い雰囲気をつくり出しているように思います。私たちは、移住後の相談も行っています。「こんな活動がしたい!」というちょっとした相談・提案等も、気軽にお尋ねください。
今回、3ページで紹介したtoiの大越さんとしまださんには、本特集の取材に協力していただきました。
大都市圏からの移住者でもある2人。当事者の立場から、自身の移住と今回の取材を振り返ってもらいました。
〇大越さん
奈良に移住してきた時、つながりが生まれる場がたくさんあることに驚きました。おかげで、新しくこのまちに来た人も、自然と自分の居場所を見つけられる。だから、一人一人がより自分らしく生きられる。今回、取材を通じて改めて奈良の魅力を感じています。
〇しまださん
このまちに来てから「おかえり」と声をかけ合う人の数が増えました。ホームタウンとは故郷を指す言葉ですが、私の中では「おかえり」が聞こえればそこがホームタウン。今回取材で関わった人たちも、「おかえり」や「ただいま」を交わせる温かさがありました。