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今、食料品の値上げ等が大きな問題として全国で取り上げられています。毎日の食卓を支える農産物については、家計への影響が大きく、食料自給率の向上や農家の後継者不足等、市でも解決しなければならない課題を多く抱えています。
一方で、昨年12月には、日本初のUNWTOガストロノミーツーリズム(※3pコラム参照)の世界フォーラムが市内で開催されました。奈良の地が育む食の魅力は、改めて世界からも注目され始めています。
今月号ではこうした動きを踏まえ、市内での「農」に携わる人の取り組み等を紹介します。
【問合せ】農政課(電話番号:0742-34-5142)、企業版ふるさと納税について:総合政策課(電話番号:0742-34-4786) さとやま民泊について:東部出張所(電話番号:0742-93-0001)
日本の食料自給率は、令和2年度の生産額ベース(生産量・輸入量等を比較する際、食料の生産・輸入・加工・流通・販売に係る費用で算出した率(食料のカロリーを元に算出した日本の食料自給率は、令和2年度で38パーセント)で67パーセント。自給率を公表している諸外国と比べても、食料の安定供給は低い水準にあります。都道府県別の自給率を見ると、関西が比較的低く、奈良県も国内平均を下回っています。
一方、市内飲食店での仕入れ状況(地元産品の消費)に着目すると、米やイチゴ、ほうじ茶等、品目によっては奈良市産・県産のものが多く使われていることが分かります。今後、食料の安定的な需給を保っていくためにも、効率的に地元産品を流通・販売できるような仕組みを検討していく必要があります。
オーストラリア…126パーセント
アメリカ…90パーセント
イタリア…84パーセント
フランス…82パーセント
日本…67パーセント
奈良県…23パーセント
【出典】農林水産省「我が国と諸外国の食料自給率」(日本は令和2年度値、国外は1~12月の暦年・令和元年値を掲載)
国内平均…67パーセント
1位 宮崎県…301パーセント
2位 鹿児島県…283パーセント
3位 青森県…250パーセント
16位 和歌山県…116パーセント
38位 滋賀県…36パーセント
40位 兵庫県…35パーセント
42位 奈良県…23パーセント
43位 京都府…19パーセント
46位 大阪府…6パーセント
47位 東京都…3パーセント
【出典】農林水産省「令和2年度(概算値)・令和元年度(確定値)の都道府県別食料自給率」(令和2年度概算値を掲載)
・全体
奈良市産…19パーセント
奈良県産…18パーセント
・米
奈良市産…35パーセント
奈良県産…29パーセント
・イチゴ
奈良市産…29パーセント
奈良県産…64パーセント
・ほうじ茶
奈良市産…32パーセント
奈良県産…34パーセント
・緑茶
奈良市産…23パーセント
奈良県産…19パーセント
・ダイコン
奈良市産…19パーセント
奈良県産…16パーセント
・トマト
奈良市産…2パーセント
奈良県産…20パーセント
・ニンジン
奈良市産…29パーセント
奈良県産…8パーセント
・ほうれん草
奈良市産…25パーセント
奈良県産…41パーセント
【出典】令和2年度 奈良市「地産地消」に関する食材の仕入れ状況調査
市では昨年秋頃から農業従事者の販路拡大を目指し、「なら農業応援塾」を開講しています。
ここでは同塾の講師の一人である佐藤さんに、農業界の抱える課題とその解決策について、マーケティング(販売促進等)の視点からお話を伺いました。
人材派遣会社での企画営業を経て、広告企画会社で大手デパートの販売促進や、ECサイトの企画を約10年間担当。そのノウハウをいかし、地方の農業・産業を支援すべく、2007年に同社を立ち上げ、その訪問先は年間100回を超える。幼少期には斑鳩町で過ごしたこともあり、県内の土地柄にも精通している。
私が日々農家さんと話す中で感じるのは、消費者と生産者の距離が遠いということです。消費者は商品のラベル情報のみを頼りにし、生産者は消費者がどのように食事をしているのかを知らないように感じます。お互いのことがよく分からないまま、値段だけが接点になっている状況。そのため、生産者は明確なターゲットを定めずに闇雲に生産を続け、本来稼げるはずの機会を損失しているケースが多いように思います。
こうしたギャップを解消するには、お互いにもっとリアルな交流をすることが必要です。それは収穫体験等ではなく、「台風被害を受けた農家さんの片付けを手伝う」ことや、「毎日お弁当を作る親御さんたちに、農家さんがおかずのレパートリーを指南する」等。そうした機会が増えれば、両者の距離は縮まると考えています。
応援塾では、農業をマーケティングの視点で考える例として、「形の悪いイチゴ(=変形イチゴ)を1粒350円で売る方法」を紹介しました。一般的に変形イチゴは安い値段で販売されてしまいます。そこでターゲットに設定したのは「生活に余裕のある子育て世帯」。マルシェに来た子どもたちへ「どれでも好きな形のイチゴを選んでいいよ」と勧めると、見たことのない形のイチゴに興味をそそられ、会場の雰囲気も相まって、みるみる売れて、完売となりました。特に品種改良やブランド化を試みたわけでもありません。育てる上で必ずできる変形イチゴを、いかにして利益にするかを考えたのです。今後農業を「稼げる仕事」にするためには、こうした顧客視点での思考の転換こそが必要だと考えています。
最近よく耳にする「ガストロノミ―ツーリズム」や、全国各地で推奨されている「地産地消」の取り組み。これらは食文化の継承や環境的な意義のほか、やはり作り手さんと直に触れ合えることが一番のメリットだと思います。奈良は比較的気候も安定しており、程よく人もいて、産地と消費地が合体している場所。優位性のある地域だと感じるので、ぜひリアルな交流を通して、市内の農業を活性化してもらえたらうれしいです。
旅行の醍醐味はたくさんありますが、中でも食は大きな楽しみの一つ。ガストロノミーツーリズムとは、文化、伝統、歴史等を食を通して感じることで、その土地の魅力により深く触れようという旅のスタイルです。
奈良はまんじゅうや日本酒等、「はじまり」と言える食文化を多く持つ場所。また、市東部には連綿と受け継がれてきた里山が広がり、昔ながらの暮らし方が今も守られています。
歴史・地理的な面から見ても、ガストロノミーツーリズムを推進するための下地がある奈良。食文化や食材をこれからも観光資源として守り続け、発展させていくことが観光都市奈良に求められています。
さまざまな課題を抱えつつも、工夫しながら事業を行う農家さん。
市街地と山間部、それぞれの農家さんに今後の展望をききました。
帯解地区(横井町)で古都華(イチゴ)、米を生産。奈良市4Hクラブに所属。奈良市食育・地産地消推進会議副会長。
「古都華」は甘味が強く、香りも高いので人気の品種。直売や店舗への卸のほか、シーズンオフの夏にも楽しんでもらえるよう、カクテルやソーダ、かき氷等、夏向けの商品開発の協力もしています。ケーキ店等への直販では、意見交換をしながらニーズに合ったものを作る醍醐味を感じています。
新規就農者の受け入れにも積極的に関わっていますが、実際に就農まで至る人は希望者の半数くらいです。どうしても理想と現実のギャップがあるようです。それを埋めるためのサポートや教育にはまだまだ改善が必要です。
日本では、遠方で作られた農産物でも出荷した次の日には食べられ、何を食べてもおいしいと思えるほどまで、食全体のレベルが上がっています。だからこそ、自分が食べるその野菜や果物のことをもっと知ってほしい。作った人の思いやストーリーを知ることで、食に対する意識が高まり、もっとおいしく食べることができるようになると思います。
農業の活性化には、人とのつながりが重要なポイントと捉えています。異業種の人であっても、お互いに刺激し合って相乗効果が生まれ、次の機会につながることが多くあります。このようなチャンスを逃さず、自慢のイチゴを今後もたくさんの人に届けたいです。
上深川町(都祁)の農家52戸が集まった農業法人。米、サツマイモ、祝大根、ほうれん草やブルーベリー等を生産販売
寒暖差の大きい上深川でできるコシヒカリは、地元の評判も良く、上深川営農では田んぼごとに別々に乾燥調整することで、こだわりの味を生かしながら出荷しています。夏はブルーベリー狩りができ、秋にはおいしいサツマイモや葉の付いた大きな大根、冬には祝大根や他の産地と比べて糖度の高い寒熟ほうれん草が採れます。こだわりや自信を持って作っている農作物。奈良の人にもっと食べてもらいたいし、私たち自身も消費者のみなさんに届ける仕組みを考えなければと思っています。
ただ、中山間ならではのさまざまな課題を抱えています。各田んぼは草刈り場が多く、鳥獣害の防除等の管理で労力がかかっています。さらに、高齢化や跡継ぎ不足が顕著で、田んぼを預かってほしいという農家は後を絶ちません。
現在、打開策を考えるため、集落を越えて協力体制の話を持ち掛けています。それにより地域農業の活性化をどうしていくかを考えていきたい、とも思っています。これまで育ててくれた村への恩もありますし、今後は若い人の力を借りつつ、地元が潤う方法を考えていきたいです。
地域内で知れ渡ってきた上深川営農。農業を楽しいと思える工夫や「稼げる農業」にしていけるよう、今もいろいろ模索しているところです。
市もさまざまな側面で、農業活性化に向けた取り組みを行っています。
見て、体験して、ぜひ農の魅力を知ってください。
就農のイメージを持ってもらうため、少人数制の就農ツアーを初開催しました。実家の農業経営を急に継ぐことになった、親子で就農を検討している等の理由から、30~60代の8人が参加しました。
〈協力〉奈良市4Hクラブ:4Hクラブとは、世界70か国に広がる若手農業者団体。奈良市4Hクラブも60年を超える歴史があり、 農産物の生産や市内での直売、親子向け食育活動等を実施しています。
市東部で「さとやま民泊」を楽しみませんか?
茶摘み体験や里山の暮らしを感じられる手仕事体験、直売所でのお買い物等、「食べる」「遊ぶ」「泊まる」「買う」コンテンツを取りそろえています。
新たな奈良市産ブランドとして、今年度からキウイの栽培を始めます。今後はキウイの産地化や耕作放棄地の活用だけでなく、農業を学ぶアカデミーを創設することで、農業で生計を立てたい人をサポートし、人材育成も行う予定です。
民間企業等が自治体の取り組みを応援できる制度です。寄附により、企業の法人税等が軽減されるほか、社会貢献を通じたPR効果や、地方自治体との関係構築等、新たな事業展開のきっかけにもなります。ぜひ奈良市産キウイの新産品化を一緒に見届けてください。
大和きくな、大和丸なす、ひもとうがらし等の伝統野菜から、トマト、イチゴ(古都華)等、市内で作られている食材を紹介した一冊。生産者インタビューからは農業への思いやこだわりが伝わってきます。農政課(市庁舎北棟2階)等で配布しています。
作成した職員より
農家さんに教えていただいた簡単でおいしいレシピを紹介しています。ぜひ、ご自宅で再現してみてください!
毎月34pに「奈良の食コラム」も掲載しています。地元産の農産物の魅力をぜひ知ってください。