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15〜39歳にあたる人々の世代をAYA(Adolescent and Young Adult)と呼び、この世代のがん対策の必要性が、数年前から日本でも考えられるようになりました。学業や仕事、結婚、出産等、人生の節目となる時期が重なる世代。生きることへの悩みや不安を抱えながらも、前向きに治療を行っている人々や、それをさまざまな面で支える人々がいます。今回は増えるAYA世代のがんの現状と、力強く生きる人々の声を特集します。
※全てのがんの集計(上皮内がんは含まず)
罹患率(10万人あたり。ある集団で新たに診断されたがんの数を、その集団のその期間の人口で割った値
グラフは「2018年に新たに診断されたがんの数/2018年の人口×10万人」で算出)
・15-19歳罹患率
女性…16.6人
男性…15.7人
・20-24歳罹患率
女性…28.4人
男性…20.6人
・25-29歳罹患率
女性…57.6人
男性…32.5人
・30-34歳罹患率
女性…109.7人
男性…50.2人
・35-39歳罹患率
女性…188.7人
男性…73.5人
〇AYA世代から急増するがんの罹患率
AYA世代が罹患するがんの総数は全年代の2.5パーセント程度で、比較的少ないとされています。しかし、AYA世代の病気による死亡原因の一番はがんによるものです。
chart1によると、がんの罹患率はAYA世代に差し掛かったあたりから増加しています。特に女性は男性と比べても罹患率が急増していることが分かります。
※全てのがんの集計(上皮内がんは含まず)
〇男性
大腸(直腸・結腸)…919人
白血病…705人
悪性リンパ腫…657人
甲状腺…528人
脳・中枢神経系…395人
胃…369人
口腔・咽頭…329人
腎(じん)・尿路(膀胱(ぼうこう)除く)…291人
肺…234人
皮膚…203人
膵(すい)臓…112人
その他…255人
合計…4,997人
〇女性
乳房…3,785人
子宮(頸(けい)部・体部等)…2,542人
甲状腺…2,132人
卵巣…1,330人
大腸(直腸・結腸)…710人
悪性リンパ腫…544人
白血病…466人
胃…401人
口腔・咽頭…295人
脳・中枢神経系…287人
肺…234人
その他…632人
合計…13,358人
〇男女で異なるがんの種類
chart2によると、2018年のAYA世代の新規がん罹患者数は約18,000人で、約7割が女性となっています。また、年代別に見ると30代の罹患が多く、全てのがんの合計のうち7〜8割を占めています。
罹患するがんの種類を見ると、男性は大腸がん、白血病、悪性リンパ腫が多いのに対し、女性は乳がん、子宮(頸部・体部等)がん、卵巣がん等、女性特有のがんへの罹患が顕著に見られます。
〇以前よりも乳がんは増加、子宮頸がんは若年化
chart3、4によると、いずれのがんもAYA世代から増加しています。乳がんでは1985年と2015年とを比べると罹患率が倍以上に増えています。これは食生活の欧米化等が一因と考えられています。
また、子宮頸がんでも同じ期間で比較すると、そのピークが若年化していることがわかります。性交渉の低年齢化により、ヒトパピローマウイルス(5ページ参照)に感染する機会が増えたから等と言われています。
〇子宮頸がん(20代が低い)
20歳…受診率9.8パーセント
25歳…受診率10.2パーセント
30歳…受診率21.8パーセント
35歳…受診率16.5パーセント
40歳…受診率22.1パーセント
45歳…受診率16.2パーセント
50歳…受診率19.9パーセント
55歳…受診率13.7パーセント
60歳…受診率18.8パーセント
〇乳がん
40歳…受診率20.0パーセント
45歳…受診率13.1パーセント
50歳…受診率16.4パーセント
55歳…受診率13.0パーセント
60歳…受診率18.7パーセント
〇若い世代の受診率増に向けて
市では子宮頸がん検診を20歳以上を対象に実施しています。奈良市のAYA世代のうち20歳以上の女性は約34,000人。このうち同検診の受診者数は約5,000人(15パーセント程度)でした。
またchart5によると、AYA世代の中でも、特に同検診の20代の受診率が低くなっています。
市では、受診可能な検(健)診がひと目でわかる「けんしんパスポート」を送付する等、受診率を上げる取り組みを進めています。
Chart1〜4の出典/ 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録・全国がん患者モニタリング集計(MCIJ))
Chart5の出典/ 奈良県市町村がん検診結果報告書(速報値)
6月下旬に各検(健)診の対象者にパスポートを配布しています。子宮頸がん・乳がん検診は2年に1度の検診です。今年度対象外で前年度未受診の人は、健康増進課へ申し出てください。また、この2つの検診の初回対象者※には、無料で受診できるクーポン券を同時期に配布しています。AYA世代の対象は子宮頸がん検診のみですが、まずは自身の身体の状態を把握してみませんか。
※対象年度の4月1日現在で、子宮頸がんは20歳、乳がんは40歳の人
急にがんと告知されてしまったら…治療や生活、仕事等のさまざまな不安が生じます。それでも周りの支えを得て、がんと向き合ってきた人々がいます。自身の経験を生かし、支える側に立った人の活動を紹介します。
入社3年目の春、ステージ3の乳がんを経験した鈴木美穂さん。自身の罹患時の体験を元に、現在全国で活発的な支援活動を行っています。鈴木さんの活動についてお話を聞きました。
〇インタビュー…鈴木 美穂さん
元日本テレビ記者・キャスター。2008年に乳がんに罹患。2009年に若年性がん患者団体「STAND UP!!」発足。2016年に、がん経験者や家族等が無料で相談できる「マギーズ東京」をオープン。「CancerX」共同発起人。
・「同じ苦しみを抱える同世代」のためにできること
右胸のしこりに気付いた14年前の春、私と家族の生活は一変しました。医師から「悪いものが写っていました」と突然告知され、がん家系でもなく知識もない私たちは戸惑いました。少しでも一緒に過ごすため、母と入社直後の妹は仕事を辞め、父は海外赴任から日本で働くことになりました。家族を巻き込んだ申し訳なさと、「なんで私だけが…」という思いで、泣き暮らす毎日でした。
治療は右乳房の全摘手術、抗がん剤、放射線等のフルコース。大変な日々でしたが、「もし生きられたら、今の私と同じ苦しみを抱える人のためにできることがしたい。同世代でがんと向き合った人が、今どのような生き方をしているかを知りたい」と考えるようになりました。
・がんを隠さなくても良い世界を作るために
治療後は、10〜30代の同世代の仲間を求め、自作の乳がん患者向けのフリーペーパーを手に、イベントへの参加やSNSでがんを公開している若い人々に声をかけていきました。そんな時に「がん患者には夢がある」と発信していたがん経験者の松井基浩さんと出会い、若いがん患者向けのフリーペーパーを発行したいと持ちかけました。すぐに意気投合し、共同して「STAND UP!!」を立ち上げ、冊子の作成が始まりました。
当時はテレビの取材でも、がん経験者をモザイクで隠す時代。「がんを隠して生きなければならない世界を変えたい」と、実名・顔出しで体験談を書いてくださる10人の若いがん経験者を探しました。半年がかりでようやく発行し、全国の病院に設置を依頼しました。その後、思った以上の反響がありました。「次は私も体験談を書きたい」という声もいただき、若い世代へのニーズを感じました。
・がんに関わる全ての人のための場所
8年前、「STAND UP!!」の創設者として海外の国際会議に出席しました。活動を経て「がん経験者が安心していつでも相談に来られる場所を作りたい」という考えを伝えると、「あなたのやりたいことは、イギリスのマギーズセンターに近い」という話を複数の欧米人から聞きました。がん経験者とその家族・友人・同僚等、がんに影響を受けた人が気兼ねなく訪れ、医療の専門家が常駐し、寄附金で運営される居心地の良い場所。これこそ私がやりたかったことの一歩先でした。
帰国後、日本でセンターを作りたいと発信されていた秋山正子さんとともに、1年半がかりで東京・豊洲に「マギーズ東京」を開所しました。がんで一寸先も見えないと嘆きながら来た人が、相談を打ち明け、これからのことを落ち着いて考え、前向きに変わっていく。そんな姿を見るたびに、人の持つ力に感動しています。
今では、治療以外の暮らしや仕事等の問題を、産官学民医の各団体の力をかけ合わせ、解決に取り組む団体「CancerX」も立ち上げました。がんを体験し、支える双方の立場からの発信を今後も続けていきたいと思います。
・鈴木さんから、AYA世代のがんと向き合うみなさんへ
真っ暗闇の中でたった一人きり、と思う日もあるかもしれません。でも、仲間はいます。支えてくれる人もいます。そして、医療も目まぐるしく進歩しています。少しでも安心して生きていけるよう応援しています。いつでもご連絡ください。
・「STAND UP!!」
今では会員数が1,000人を超える団体に。遠方からもオンラインでつながることができ、定期的に交流会を開催。
・「マギーズ東京」
対面相談が基本ですが、当面は電話やオンラインでも相談可。グループプログラムも開催(全て利用無料)。
仕事と治療をどう両立するか、治療にどれくらいお金がかかるのか…。こういった生活や仕事の悩みを、がん経験者や支援者とともに、市内で気軽に話し合える場作りを行っている、辻本さんにお話を聞きました。
〇インタビュー…辻本 由香さん
ファイナンシャルプランナー(FP)。自身の乳がんの経験から、仕事と治療の両立支援を行う「はーべすと」を立ち上げる。奈良県がん対策推進協議会委員として、患者の立場から地域に則した支援の形を提言している。
・活動のきっかけ
私は43歳の時に乳がんで入院となったのですが、そこで出会った患者仲間が、お金や仕事のことで苦労する場面をたくさん目の当たりにしました。医療費を稼ぐために治療をしながらパートを始める方、会社の理解を得られず降格となった方等…。FPの私は、このような相談を聞くうちに、病気に日頃から備えておく重要性を広く伝えたいと思うようになりました。また、私が実際に参加した患者会は高齢の方が多く、若年層ゆえのつらさが理解してもらいにくかったので、若い世代が気軽に集える場所を奈良に作りたい、と活動を始めました。
・仕事と治療を両立する難しさ
「会社に復帰=元通りの仕事ができる」と認識され、そのギャップに思い悩んでしまうケースがあります。反対に、本人は体調が良く以前のように働きたいが、会社から無理をさせてはいけないと休暇を取るよう勧められたケースも見られます。仕事と治療を両立することの難しさがここにあります。
このような場合、「今できることと、今後治療のメドがたったらできるようになることを、きちんと説明できるようにしましょう。」とアドバイスしています。それが難しければ、医師から書類を書いてもらったり、会社の人事の方等と一緒に病院に行って話を聞くこともできます。その他、市内の産業保健センター(労働者の健康管理を管轄する)には、両立支援の促進員がいるので、間に入ってもらう仕組みもあります。
・辻本さんから、AYA世代のがんと向き合うみなさんへ
治療の他にもさまざまな支援があること、悩みを共有できる・つながれる場所が身近にあることを、若いみなさんもぜひ知ってもらいたいです。誰にも言えない悩みこそ誰かを頼るべきこと。若いうちは備えができていなくて当然です。今、がんで悩みを抱えている方がいれば、まずは医療従事者等に相談してみてください。私自身がそうであったように、誰かとつながることで、道は必ず開けていくと信じています。
〇県のがん情報提供ポータルサイト「がんネットなら」には、患者会やがん支援等の関連団体の一覧を掲載しています
性的接触のある女性の50パーセント以上が、生涯で一度は感染するとされるHPV。感染により子宮頸がんや肛門がん、膣がん等につながるとされています。このウイルスへの感染を防ぐため、小学校6年生~高校1年生に相当する女性を対象に接種されるワクチンです。
●キャッチアップ接種を行っています
【対象】平成9〜17年度生まれ
(1997年4月2日〜2006年4月1日生まれ)
対象者には順次、個別の通知を送付しています(通知が届かなくても接種可)。
接種は全部で3回。過去1〜2回の接種歴があり、長期にわたって中断していた人も対象です(残りの回数のみ接種)。市内の登録医療機関で予約の上、接種ができます(市外で接種する場合は健康増進課へ)
【持物】
1.母子健康手帳
2.健康保険証等の本人確認ができる書類
3.過去にHPVワクチンを受けたことがある人は、接種歴が分かるもの
・積極的な接種の勧奨を再開しています
これまでは、ワクチン接種後に持続する痛み等が報告され、副反応に関する適切な情報提供が難しいことから、積極的な接種の勧奨を差し控えていました。昨年、専門家の会議で安全性に問題が見られず、ワクチンの有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められたため、国で積極的な接種の勧奨が始まりました。
●自費で任意接種を受けた人へ
接種の勧奨を控えていた時期に、定期接種の年齢を過ぎて、自費で接種を受けた人に対して、費用の償還払いを秋頃実施予定です。
【問合せ】健康増進課(電話番号:︎0742ー34ー5129)