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近年、スマートフォンやタブレット端末等の新しい媒体の登場とともに、行政サービスも変革の時を迎えています。
デジタル技術やAI(人工知能)等に着目し、より便利で非接触のサービスが行えるような基盤づくりを国主導で始めています。
今月号は、デジタル技術で市民のみなさんがより便利に変わる奈良市の行政サービスを紹介します。
DX:DIGITAL TRANSFORMATION
デジタル・トランスフォーメーション(ディー・エックス)とは…
デジタル技術によって、人々の生活をより良いものに変革すること
日本では2017年に「デジタル・ガバメント推進方針」が策定され、行政サービスをデジタル前提で見直す本格的なデジタル改革が動き始めました。
今年の9月には(仮称)デジタル庁を設置する準備が進められています。
また、DX推進に向けて「自治体DX推進計画」を構築しています。
●自治体DX推進計画のイメージ
Before(以前)
手続きのデジタル化を進めるも、手順は変わらず、負担は軽減されず…
異なる手続きで何度も同じ情報を入力
添付漏れ・記載方法を役所の窓口と何度も調整…
手続きのためだけに書類を一からわざわざ作成
After(今後)
より簡単に、より早く!面倒なお役所手続きから開放
同じ情報の入力は一度だけ(ワンスオンリー)
事前に一発で判明。面倒なやりとりは不要に(ワンストップ)
民間サービスとも連携、手間が最小限に
●具体的な取り組み
1.自治体の持つ情報システムの標準化・共通化
児童手当、住民税・固定資産税等、国民年金、国民健康保険、介護保険、選挙人名簿の管理等の17の業務を、システム上で統合し、横断的な活用を可能にします。
2.マイナンバーカードの普及
住民の本人確認をオンライン上で可能にすることで、デジタル化を飛躍的に進めることを目指します。
3.行政手続きをオンライン化
子育て関連(児童手当や保育施設等の利用申込、妊娠届出等)、介護福祉(支給認定等)、り災証明書の発行、自動車税等の31の手続きを、オンラインで手続きできるようにします。
国の計画を受け、市でも各手続き等のデジタル化を進めています。
昨年は新型コロナウイルス感染症対策を契機に、各部署で非接触への取り組みが進められ、デジタル化への流れが加速しました。
ここでは、市が目指すDXのかたちに基づき進めている、新しい取り組みを紹介します。
個別最適化の実現 個々に寄り添うデジタル化
市民サービス(3-4ページ)
・ICTを活用した窓口改善
・LINEを使った新しいサービス
観光(4ページ)
・観光案内業務をデジタル化・見える化へ
行政事務効率化(5ページ)
・テレワークの推進
・Web会議ツール等の導入
教育(6ページ)
・奈良市版GIGAスクール構想の推進
●スマート窓口・おくやみコーナーを設置
市では2019年3月から「証明書等のコンビニ交付サービス」をスタートしています。これをさらに一歩進め、同年11月から「スマート窓口」や「おくやみコーナー」の運用を開始しました。引っ越しの際には、庁内の複数の窓口で住所変更の届出が必要となり、各申請書に何度も同じ項目を記入する必要がありました。これをスマートフォンで事前に申請書を作成し、来庁時にスムーズに手続きできる窓口を開設しました。また、死亡関連の手続きについても同様の問題を抱えていましたが、手続きをワンストップで行える窓口「おくやみコーナー」を開設し、遺族の負担を軽減する取り組みを進めています。
●窓口の混雑・空き情報が一目でわかるように
窓口の混雑状況・空き情報をスマートフォンで確認できるサービスが市でも始まっています。来庁者の待ち時間の縮減を図り、混雑緩和で3密の回避にもつながります。順番が近づいた際にはLINEやEメールで通知を受け取ることも可能です。また今後は、受付発券機に蓄積したデータから、混雑傾向カレンダーを作成する予定です。
今年3月から新しくなった市民課窓口
●オンライン相談受付支援システム
市役所本庁の窓口でしか対応できなかった業務を、近くの出張所や行政センターから、本庁の担当職員と直接オンラインでやりとりし、手続きできるようになりました。カメラを通してお互いに申請書を見ながら手続きができ、申請をスムーズに行うことはもちろん、書類の記入漏れ等も減らすことができます。
スマートフォンの普及に伴って広がったSNS(※1)。中でも「LINE」は国内での利用率が86.9パーセント(令和元年度)と、多くの人に利用されています。LINE社では、国のスマート社会(※2)の実現に向け、「持ち運べる役所」をコンセプトに、さまざまな行政改革を全国の自治体とともに進めています。
市でも、市政をお知らせし、市民のみなさんの意見を広く集める手段として、昨年6月から公式アカウントを開設しました。LINEの機能を活用した以下の事業が、現在始まっています。
(※1)ソーシャル・ネットワーキング・サービスの略。FacebookやTwitter等、インターネットで人と人とコミュニケーションを図り、社会活動やビジネス等のWeb上での関係性を築くもの
(※2)これまでインターネットに接続されていなかったさまざまなモノ(家電製品や車等)をつなぎ、共有した知識や情報によって今まで不可能だった課題や困難を克服し、新たな価値が生まれる社会
●国内の主なソーシャルメディア系サービス/アプリの利用率
13~69歳までの男女1,500人を全国125地点で無作為に抽出
LINE 86.9パーセント
Twitter 38.7パーセント
Facebook 32.7パーセント
Instagram 37.8パーセント
TikTok 12.5パーセント
総務省情報通信政策研究所「令和元年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」より
●自分の知りたい情報のみ得られるセグメント配信サービスを開始
市公式LINEの通知設定で年齢や性別、居住地、興味のある分野を指定すると、選り分けられた市の情報を受信できるようになります。利用者が幅広く、なるべく多くの情報を掲載する広報紙やホームページ・SNS等と異なり、自分に合わせた情報を探す手間や、今欲しい情報を見つけにくいという課題をこのサービスで解消します。
市LINE公式アカウントセグメント配信サービス
これが知りたい!
・子育て情報
・市の講座イベント
・奈良への移住情報
自分の属性を入力
・子育て
・女性
・関係
・人口
・移住
・イベント
・30代
欲しい情報が届く!
[現在一時休止中]
●全国初の取り組み!国民健康保険の手続きがLINEで完結
加入・脱退、限度額適用認定証の交付等の手続きを、LINEの機能を使って完結できます。スマートフォン等での写真撮影・送付機能を通じて、顔写真や本人確認書類の送付も可能に。今後は国民健康保険に関するすべての手続きを行えるよう検討しています。
[現在一時休止中]
●国保年金課担当職員の声
これまでは、仕事のため平日昼間に市役所に行けず、手続きに困っている声を多く聞いていました。
昨年11月にサービスを開始してからは、LINEでの申請が月に50件程度あり、中には早朝・深夜の申請もありました。申請から交付まで、全てが家にいながらできて、便利になったという申請者の声も…。
これからは場所や時間を気にせず、申請してください
●このほか、子ども医療・ひとり親家庭等医療の手続きの一部もLINEで申請可能になりました(くわしくは34ページ)
密を避けて観光ができるよう、地図上に飲食店や施設等の混雑・空席情報を発信する等、快適な観光ルートを自ら選択できる仕組みを、市観光協会とともに構築しています。
また、観光地等の混雑状況の把握のため、観光客の主要観光スポットの人流(人出)データの収集を、昨年12月から試験的に開始しました。計測によって得られたデータは、混雑状況の可視化に加え、観光振興と持続可能な観光地づくりを進めるために活用していきます。
市内のデジタルサイネージ(電子掲示板)で混雑状況が確認できる(色で混雑のレベルを表示、赤い場所は密集地点)
博士(情報科学)。30年間民間企業で情報関連の事業・研究に従事のほか、8年半にわたり招へい教授など兼務の後、平成29年より奈良市の情報政策に参加、平成31年4月より現職(CIO)。
・DXはデジタル改革?:「目的」ではなく「手段」
日本では人口減少・少子高齢化が叫ばれて久しいですが、今後は社会全体の労働者数の減少に伴い、各自治体の職員数も減っていくと想定されます。一方で、行政には今まで以上の役割・サービスが求められており、さまざまな業務を根本から見直す時期にあります。その一躍を担うのがDXだと考えています。
DXは情報技術のことだと考えがちです。しかし本質は、デジタル技術を使って仕事のやり方を見直す、再構築することで何を達成するのかが重要です。行政の立場では、市民のみなさんにどのような利便性があるのかを考え、何を提供すべきかを一から見直して、改めて組み立てていくことになります。
・民間の技術にも柔軟に対応する
この考え方を前提に、市役所の窓口ではデジタル化を積極的に進めており、同時にLINE等の民間サービスとも連携しています。みなさんがよく使うコミュニケーション手段を、行政も柔軟に活用していくことが必要で、その手段の長所を生かしたサービスを提供していくことは、DXの観点から見ても続けていかなければならないと考えています。
・行政事務の効率化と、人材の育成
また、組織の内部のDXとして、テレワークやWebコミュニケーションツールの活用を推進しています。職員の作業を効率化し、空いた時間で住民本位の仕事に充てることを目指しています。この点は民間の方が進んでおり、市場の競争原理がDXを自然に促進しているのです。しかし、行政にはそれがなく、自ら奮い立ち、変わっていかなければならないため、行政にこそDXが必要だと考えています。そのためには、職員一人一人が問題意識を共有し、組織全体でDXに取り組むこと、その環境こそが、持続的に情報に長けた人材を生み出す方法だと考えています。
・「デジタル」という言葉に気負わない
かつてエジソンの発明した電球は、蛍光灯・LEDへと姿を変えるも、あかりを灯すといった目的は変わっていません。技術が進化しても、私たちの目指す形は変わっていないのです。そして、昔の技術は決してなくなるわけではなく、ある領域では必ず生き残っており、そこには時代を超えた共通点が必ずあります。「温故知新」という言葉があるように、当時の発想の方が本質を捉えているものもたくさんあります。
DXを進める上で一番大切なのは、従来の残すべき技術と、新しい技術で置き換える部分の境目を見極めることです。「デジタル」という言葉に気負わず、私は時代遅れなどと思わずに、これは残す、これは大切だという部分を、ぜひみなさんとも一緒に考えていきたいと思います。
行政のデジタル化、コロナ禍で一気に進んだ非接触化により、申請書等の押印の省略が全国で進められています。市では昨年10月に、国の申請様式96件と印鑑証明関連の手続き2件を除き、全ての申請で押印を廃止しました。
今後は本人からの申請であることを簡単に確認・証明するツールとして、マイナンバーカードを印鑑の代わりとする申請もあります。3月1日現在、市でのカードの普及率は31.4パーセント。取得がまだの人はこの機会に考えてみませんか。
●マイナンバーカードでできること
現在
・行政・民間での本人確認書類として
・社会保障・税の手続きで添付書類が不要に
・コンビニで証明書等が取得可能
未来※全国で検討中
・健康保険証としての代用
・海外でのインターネット投票
・窓口のAI端末にカードをかざして、本人情報を申請書に自動入力 等
・スマートフォン、パソコン・郵送で申請可能です
・市役所本庁舎、各出張所・行政センターの他、ならファミリー3階の市マイナンバーカードセンターでも申請・交付可
「ギカスクール構想」は、国が主導し、全国の小中学生にタッチパネル付きノートパソコンを配置、学校に高速大容量のネットワークを整備し、誰一人取り残すことなく子どもの力を最大限引き出す学びを目指すものです。
市では、「一番古いまち(奈良)で一番新しい教育を!」をスローガンに、全国に先駆けて昨年9月末に1人1台のタブレット端末(パソコン)の整備を完了し、学校での授業や家庭へ持ち帰っての学習等に活用しています。
ここでは、現在、各学校で行われている個別最適化の取り組みと協働的な学びの一例を紹介します。
●一人一人に個別最適な学びを提供
「キュビナ」は、5教科に対応したタブレット型デジタル教材です。児童生徒一人一人の回答時間や回答データ等をもとに、得意や苦手をAI的な手法によりシステムが分析します。分析結果をもとに、苦手を克服するための問題や、より応用的な問題等が出題され、子どもたちは一人一人に合わせた問題に取り組むことができます。これらを通して、それぞれの学びをそれぞれのペースで取り組む個別最適な学びを支援します。
タブレット型デジタル教材「キュビナ」(写真あり)
●ICTを使って協働的な学びを実現
これまでは模造紙と付箋紙を使って行っていた意見交換や発表も、デジタル版のホワイトボードでリアルタイムに実施できます。このような活動に端末一つで場所を問わずに取り組むことができ、意見の集約、共有、発表を簡単に行うことができます。こうした機能を活用して、子どもたちがみんなで協力して学ぶ力を育てます。
デジタル版 ホワイトボード活用の様子(写真あり)
奈良女子大学附属中等教育学校副校長を経て、2018年から一条高等学校長に就任。在籍中はICTを活用した教育改革に次々と取り組む。2020年4月から教育監として、奈良市の教育行政に携わる。
・市が目指す新しい学校教育の姿
「一生涯幸せに、自由に生きる力を身に着けさせること」。これが教育の最終目標だと、私は思います。今後社会がどう変わろうとも、子どもたちは自身の未来を切り拓かなければなりません。その力をつけるには、他の人と協働しながら、常に未来に向けて学び続ける意欲や、自分に切り拓く力があるという自信を持つことが重要です。(今年1月に更新した「奈良市教育大綱」の3つの「子ども像」より。今後5年間の奈良市が目指すべき教育目標・方針を定め、市の教育によって育てたい子どもの姿を示した)
これまでの学校教育は、全て同じ場所・時間・授業内容で一斉に提供するものでしたが、変化に対応するには、子ども一人一人に合った教育を行う必要があります。
・まずは受け入れ、思考することが成長に
今回整備した端末は、子どもの学びの個性化・協働にとって、非常に有効なツールだと考えます。今後は学校が裁量を持って、地域や子どもの事情に合わせた学校教育を展開することが期待されています。「機械を通したコミュニケーションは冷たい」等の否定的な意見も聞かれますが、まずは子どものやることを信じ、良いところに着目してみてください。親や教員が良い部分に気付き、共感して支援することで、子どもは自信をつけ、自発的に学び始めるきっかけにつながります。思考を止めずに、まずは新しいものを使ってみること、その使い方を考えること。それが、これからの学びの中心になるだけではなく、ひいては市全体で現在行われている行政サービスの変革の思考にも通じるのではないかと私は思います。
各校の端末を使った授業風景は、市ホームページで日々公開しています。海外にいる外国人とのオンライン英会話や、動画を見ながら体を動かす体育の学習等、新しい取り組みが始まっています
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2~5ページ:秘書広報課(電話番号:34ー4710)
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