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奈良市で新型コロナウイルス感染症対策本部が立ち上がり、はや1年。
今月号は、今後のワクチン接種に関する情報や、市を取り巻く状況をデータで紹介する等、
改めて新型コロナウイルス感染症の「今」と「これから」を知るための情報をお届けします。
【本特集の問合せ】対策に関すること:医療政策課(電話番号:93ー8392)、ワクチン接種に関すること:健康増進課(電話番号:34ー5129)
●奈良市保健所長 健康医療部長 佐藤 敏行
平成28年入庁(医師職)。奈良市の医療行政に携わり、現在は新型コロナウイルス感染症対策で指揮を執る。平成21年に新型インフルエンザが猛威をふるった際には、佐賀県庁に勤務。
「中国の武漢で変わった感染症がはやっているらしい」。所内で噂になったのは令和元年11月頃でした。当時はまだ情報が少なく、中国の様子を見守っていました。瞬く間に国内でも感染が発覚。テレビの速報で「国内初の感染者」「奈良」の文字を見た時、まさかと戦慄したのを今でも覚えています。
その後、すぐに庁内で対策本部が立ち上がりました。複数の自治体で医療行政に携わっていた私から見て、中核市でここまで対応が早く、また、危機管理部門がぐいぐいと新型コロナウイルス対策をけん引することに驚かされました。過去に起きた新型インフルエンザ対策時の経験が、今に生かされていると感じました。
奈良県内で感染が発覚してからは、保健所への問合せが相次ぎました。すべての電話回線がふさがっている状態で、職員の中には夜間も家で対応しようと、公用の携帯電話を家で握りしめていた者もいました。そんな怒濤の日々(第1波)が収束し、所内にも落ち着きを取り戻したと思った矢先、夏頃に再び増えはじめた第2波では、連日のように陽性者が発生し、「このままずっと続くのではないか」との先の見えない不安と疲労感が所内にも広がった時期でした。今でも職員からは「この時期が一番大変だった」という声を聞きます。
その後現在に至るまで、人事部門の理解を得て所員の増員がなされ、病床逼迫の限界を超えない範囲で踏みとどまっています。所内の職員もより円滑に対応ができていると感じています。
現在、ワクチン接種については推進室を設置し準備を進めています。一人でも多くの方に接種していただきたいのですが、予防接種の良い点やそうでない点を把握され、その上で接種の判断をしてほしいと思います。今後、接種が始まれば私も受けるつもりです。
伸び伸びとできない毎日が続きますが、まず基本的なところからという意味で、手洗い・うがい等の習慣を、新型コロナウイルスの有無に関係なく、市民のみなさまの暮らしの中に根付かせていただけると心強い限りです。
写真:市保健所の外観、市保健所でのリアルタイムPCR装置を使った検査、発熱外来での検体採取、上空から見た市立奈良病院、保健師の電話対応の様子
市では1月に、「新型コロナウイルスワクチン接種推進室」を設置しました。現在、国・県と連携し、ワクチン接種について調整を進めています。
接種は無料で受けられ、上腕に全2回の筋肉注射を行います。初回接種から1か月弱の期間を空け、2回とも同じ製薬会社のワクチンを接種する必要があります。
接種場所は原則、住所地(住民票所在地)で。予約が必要です
原則、住所地の市区町村にある接種会場(現在未定)で接種を行います。接種には予約が必要で、接種券(クーポン券)は市から住所地に送付します。接種券はシール状になっており、はがさずに会場まで持参してください。
やむを得ない事情がある場合は、例外的に住所地外での接種を受けることも可能です。例えば、里帰り出産の妊産婦、遠方に下宿している学生、単身赴任者等は、現在住んでいる市区町村へ申請することで接種を受けることができます(入院・高齢者施設等への入所中の人、基礎疾患があり自宅で主治医が接種する人、災害にあった人等は申請不要)。
ワクチン接種には国が定める接種順位があります
1月15日時点の厚生労働省の自治体向け説明資料より抜粋。供給量等は国内全体の数字
次の順に接種を行う予定です
(1)医療従事者等(約400万人分)
(2)和3年度中に65歳以上になる人 (約3600万人分)
(3)基礎疾患のある人 (約820万人分)
(4)高齢者施設等の職員 (約200万人分)
(5)60~64歳の人 (約750万人分)
(6)その他の人
(16歳未満の人への接種は2月1日現在未定です)
・(2)~(6)は接種券(クーポン券)の送付後 接種を行います
・各人の接種開始時期は市から通知する予定です
・(3)基礎疾患のある人は接種会場での自己申告制(予診票に各自記載した内容を確認します)
・(6)その他の人はワクチンの供給量等を踏まえ、順次接種(他と接種開始時期がずれる可能性があります)
(1)慢性呼吸器の病気、心臓病(高血圧含む)、腎臓病、肝臓病(脂肪肝や慢性肝炎を除く)
(2)糖尿病(インスリンや飲み薬で治療中、または他の病気を併発)
(3)血液の病気(鉄欠乏性貧血を除く)
(4)免疫機能が低下する病気(治療や緩和ケアを受けている悪性腫瘍を含む)
(5)ステロイド等の免疫機能を低下させる治療を受けている
(6)免疫異常に伴う、神経疾患や神経筋疾患が原因で身体の機能が衰えた状態(呼吸障害等)
(7)染色体異常
(8)重症心身障害(重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態)
(9)睡眠時無呼吸症候群
ワクチン接種やPCR検査等に乗じた不審な電話が全国各地で相次いでいます。「ワクチン接種に予約金が必要だ」等という電話は全て詐欺です。不審な電話がかかってきたら、すぐに電話を切り警察へ通報してください。
※9ページに特殊詐欺に関するお知らせがあります
今後、接種関連の問合せに対応する、コールセンターを開設予定です。接種開始時期等の情報は、引き続きしみんだよりや市ホームページで随時お知らせします。
新型コロナウイルス感染症の第3波(昨年10月26日以降~)の最中にいる今、改めて奈良市の傾向に着目しました。
2月4~5日時点でのデータのため、発行時には情勢が異なる場合があります。
都道府県別の感染者数の累計
和歌山県 1,091人
滋賀県 2,200人
奈良県 3,078人
奈良市 857人
京都府 8,651人
兵庫県 16,892人
大阪府 44,562人
東京都 102,200人
※各都道府県のオープンデータおよびNHK「新型コロナウイルス特設サイト」から作成(2月4日時点のデータ)
〇解説
都道府県別の感染者数の累計を見ると、京阪神は特に感染者の多い地域だと分かります。しかし、各都道府県の人口を10万人として置き換えた場合、奈良市も決して低くはない水準にあります。感染が急増している地域への不要不急の往来の自粛等、引き続きの注意が必要です。
大阪メトロなんば駅・近鉄大和西大寺駅周辺(半径500メートル)の週別人流変化数
◆大阪メトロなんば駅周辺500メートル
4月7日~5月21日 緊急事態宣言 急激な落ち込み
7月10日~ 第2波 緩やかに落ち込み 再び増えるも、緊急事態宣言以前の人出には戻らず
10月26日~ 再び増えるも、緊急事態宣言以前の人出には戻らず
1月14日 緊急事態宣言
◆近鉄大和西大寺駅周辺500メートル
4月16日~5月14日 急激な落ち込み
7月10日~ 第2波 再び落ち込み
10月26日~ 第3波 再び増え、元の水準に戻る
〇解説
近鉄大和西大寺駅と大阪メトロなんば駅周辺の週別(平日)の人出を比較すると、両エリアとも共通した人出の増減が見られます。
一方で、なんば駅が一度目の緊急事態宣言前の水準に戻っていないのに対し、大和西大寺駅は宣言前の水準に再び戻りました。市内の自宅周辺で過ごす人が増えることや、人ごみの少ない外出先として奈良市を訪れる人の増加等が考えられます。
※株式会社Agoop「新型コロナウイルス拡散における人流変化の解析」より作成。(2月4日時点のデータ)
スマートフォンやタブレット端末等のGPSデータ(位置情報)を月別・時間帯別に取得し、それらの使用者を日本総人口規模に推計したデータ。駅利用者の他、500メートル以内の周辺居住者(位置が固定された人)も含まれる
●県内のPCR検査数と陽性者数・陽性率
陽性率は4~8パーセントの間を推移
日によって検査数が上下しても陽性確認数はおおむね横ばい
〇解説
奈良県内の陽性率(検査数に対する陽性者数)は4~8パーセントの範囲を推移しています。日によって10~30パーセントの範囲で上下する京阪神と比べると、比較的低い水準にあります。また、県内の病床や療養室の使用率も一時的には約65パーセントまで高まりましたが、緊急事態宣言後は退院や療養解除となる人が増え、減少傾向にあります。
●第3波の市内の年代別陽性者数
総数 703人
10歳未満 男9人 女5人
10代 男 36人 女 25人
20代 男 49人 女 53人
30代 男 45人 女 43人
40代 男 61人 女 65人
50代 男 67人 女 55人
60代 男 56人 女 35人
70代 男 35人 女 33人
80代 男 10人 女 17人
90代 男1人 女3人
●市内感染経路不明者の推移
感染者の増加に伴い経路不明者も増加
●経路別陽性者数の第2波と第3波の比較
・第2波(133人)(7月10日~10月25日)
経路不明…23人
家族以外の感染者との接触…41人
家庭内感染…16人
県外飲食等…33人
その他(院内感染等)…20人
・第3波(703人)(10月26日~2月5日)
経路不明…263人
家族以外の感染者との接触…173人(4.2倍)
家庭内感染…176人
県外飲食等…26人
その他(院内感染等)…65人
経路不明が第2波と比べて11.4倍
家庭内感染が第2波と比べて11倍
●月別・年代別の家庭内感染者数
・7月の合計 2人
60代…1人
70歳以上…1人
・8月の合計 11人
10歳未満
10代…1人
20代…1人
30代…2人
40代…1人
50代…4人
70歳以上…2人
・9月の合計 0人
・10月の合計 3人
10歳未満…1人
50代…1人
60代…1人
・11月の合計 33人
10歳未満…1人
10代…5人
20代…3人
30代…2人
40代…8人
50代…6人
60代…3人
70歳以上…5人
・12月の合計 56人
10歳未満…1
10代…8人
20代…7人
30代…2人
40代…9人
50代…11人
60代…8人
70歳以上…10人
・1月の合計 73人
10歳未満…6人
10代…9人
20代…5人
30代…7人
40代…12人
50代…9人
60代…7人
70歳以上…18人(70代以上が顕著に増加)
※全て奈良市の報道発表資料より作成(発表時点の状況、2月5日時点のデータ)
〇解説
奈良市の傾向(第3波)として、年代・性別問わず等しく感染者が見られます。また、推定される感染経路は、第2波と比べて「感染経路不明」と「家庭内感染」の増加が目立ちます。特に家庭内感染は11月以降急激に増えており、70代以上の感染者の増加が顕著に見られます。これらから、誰でも場所を問わず感染するリスクが今高まっていると考えられます。自分がうつらないことに加え、家族等の身近な人にうつさない配慮が非常に重要です。