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奈良の秋と冬を代表する年中行事といえば、正倉院展と春日若宮おん祭です。今回の展示では、これらの行事の中で正倉院展の宝物公開に先立って行われる正倉院の扉を開ける開封の儀式と、おん祭の主要な行事のひとつで、奈良町で行われる大宿所祭にスポットをあて、江戸時代の絵図を中心に紹介します。
正倉院の開封の儀式は、宝物や文書の虫干し、点検、修理などのため正倉院の扉を開ける時に天皇の使いを迎えて行われます。
江戸時代には、慶長、元禄、天保と3回の修理があり、今回展示する絵図は、天保4年(1833)の修理の際の開封の儀式を詳しく描いています。この修理の間、奈良町の人々が町の治安維持に努めたという町の記録も紹介します。
おん祭は、春日大社の摂社若宮社の祭礼で、保延2年(1136)から続く奈良を代表する大祭です。大宿所(おおしゅくしょ)とは、祭礼に参加する大和武士の宿泊所で、餅飯殿町(もちいどのちょう)にあります。この大宿所の行事の運営について、奈良奉行所で町政事務を務めた町代(ちょうだい)が残した記録や、今も大宿所に飾られる「献菓子(けんがし)」など、華やかな飾りものを詳しく図解した史料などから、大宿所を中心に、近世のおん祭の様子を紹介します。
天保四年 正倉院御開封之図
(てんぽうよねん しょうそういんごかいふうのず)
天保4年(1833) 個人蔵
天保四年からの正倉院修理にともなう正倉院開封の様子を、詳しく描いた絵図です。開封の儀式の様子(写真上)と、四聖坊(ししょうぼう)での宝物点検の様子(写真下)などを詳細に描写しています。
四聖坊 正倉院の南西にあった塔頭。「四聖」とは、聖武天皇、東大寺を開いた良弁僧正(ろうべんそうじょう)、大仏開眼の導師をつとめた婆羅門僧正菩提僊那(ばらもんそうじょうぼだいせんな)、諸国を勧進した行基菩薩のことで、その御影が安置されていたことに由来する。
大宿所に供えられた献菓子(けんがし)
飾りの寸法や仕様のメモが細かく記され、彩りも美しく描かれています。
大宿所の懸け鳥
たぬき、キジ、ウサギの懸け鳥と、その覆屋が描かれています。
春日社若宮祭図解
明治3年(1870) 個人蔵
おん祭の祭式次第や装束、道具類、大宿所のしつらえや調度などを彩色した絵図入りで詳しく記した冊子で、春日社側がおん祭の継続を神祇官に嘆願する一環として、おん祭の道具類などの現状をまとめた報告書です。
宝暦十一年 大宿所日記
(ほうれきじゅういちねん おおしゅくしょにっき)
宝暦11年(1761) 個人蔵
大宿所の様々な行事を取り仕切る町代の仕事の手控え、マニュアル的な本です。祭礼の準備や当日の人足の賃金を負担する奈良町100町の町名と分担する費用なども記されています(写真)。大宿所の準備・運営に関わる仕事の全体を知ることが出来る史料です。
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