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「奈良名所風物画」は今から90年ほど前、昭和10年(1935)頃の奈良駅(現JR奈良駅)前や三条通りの風景、その先にある猿沢池、興福寺、春日大社、東大寺、奈良公園といった代表的な名所の風景と奈良の名産品である墨や筆づくりの様子などが描かれた筆彩画です。全部で21点あり、すべて同じ人物が描いたものとみられます。平成27年(2015)に寄贈を受けた際には、作者や作成の経緯については伝わっておらず不明でしたが、今回展示の準備を進める中で、昭和12年(1937)に刊行された挿図入りガイドブックの『奈良名勝漫遊三日の旅』(編集兼発行者 小国堅太郎)に所収の挿図とほぼ同じ構図やよく似た箇所がいくつもあることがわかりました。
今回の展示では、「奈良名所風物画」を途中入れ替えて全点紹介します。また、関連する参考資料として、『奈良名勝漫遊三日の旅』もあわせて紹介いたします。双方の同じ場面を「発見」しながら、90年前の奈良の観光名所と往来する人々の服装や乗り物などからみる風俗を感じつつ、当時の奈良観光を追体験していただきたいと思います。
期間 | 令和6年6月11日(火曜日)~令和6年8月25日(日曜日) ・前期:6月11日(火曜日)~7月15日(月曜日・祝日) ・後期:7月17日(水曜日)~8月25日(日曜日) [休館]月曜日、7月16日(火曜日)、8月13日(火曜日) |
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時間 | 午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで) |
入館料 | 無料 |
主な展示品 | ・奈良名所風物画 昭和10年ごろ(1935) ・奈良名勝漫遊三日の旅 昭和12年(1937) ・奈良名勝全図 昭和18年(1943) |
展示解説 |
館員の展示解説を、史料保存館で期間中2回行います。申込は不要です。 |
展示関連イベント | |
奈良町にぎわいの家出張展示 企画展示「奈良名所風物画-昭和の初めの奈良観光-」展の展示期間中に、奈良町にぎわいの家で、展示に関連した史料の一部を出張展示し、史料保存館の館員が史料の解説を行います。 日時:6月22日(土曜日)午後2時~4時 解説:午後2時から約30分 会場:奈良町にぎわいの家(奈良市中新屋町5) 費用:無料 |
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後援 | 〈歴史街道HP<外部リンク>はこちら〉 |
奈良名所風物画 奈良駅・若草山から興福寺遠望 昭和10年ごろ(1935) |
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左半分には、奈良駅(現在のJR奈良駅)前の風景が描かれています。寺院風の屋根に、洋風建築の意匠も取り入れた和洋折衷の建物は、昭和9年(1934)建築の二代目の駅舎です。その前には、客待ちの人力車の列とともに、バスや自動車も描かれています。また、旗を手にしたガイドに引率された大勢の観光客の姿も見られます。右半分は、若草山から東に連なる山並みと、興福寺の遠景が描かれています。 |
奈良名所風物画 猿沢池・采女社・衣掛柳 |
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興福寺側(北)から見た猿沢池です。右手に采女神社、左手に衣掛柳が描かれています。中央の柳の大木の近くには、観光客に鹿せんべいを売る女性とせんべい目当ての鹿が描かれています。画面左下にあるのは昭和6年(1931)に設置された木製の、春日灯籠型の街頭ラジオです。 |
奈良名所風物画 製墨 古梅園 昭和10年ごろ(1935) |
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右端に「昭和十年古梅園にて写生」と記されています。作成時期が明記された唯一の作品です。 古梅園は奈良墨の老舗で、右端には採煙蔵で植物油を入れたかわらけの中の芯に火をともして煤を採取する様子、その左には、ふんどし姿の職人が煤と膠を合わせて練り上げている作業の様子が描かれています。 |
奈良名所風物画 石子詰旧跡、おん祭、春日神社一の鳥居 昭和10年ごろ(1935) |
右端に石子詰旧跡(昔、三作という子どもが、手習いの草紙を食べた春日の神鹿に筆(文鎮ともいう)を投げると、鹿が死んでしまった。そのため興福寺大御堂の境内で石子詰めの刑になった三作の墓といわれている)、中央に一の鳥居、左半分には春日若宮おん祭の行事の松の下式、御旅所祭、お渡り式の大名行列が描かれています。左下は、祭礼の日に屋台でゆで蟹を売る様子です。 |
奈良名所風物画 奈良公園、雪消沢、雨の鷺池、鹿、写真屋 昭和10年ごろ(1935) |
左には、奈良公園の群鹿や観光客、中央下には雪消沢、左上には雨の鷺池と浮御堂を描いています。左端には鹿も観光客と一緒に写真撮影に納まっている様子が描かれています。 |
奈良名所風物画 東大寺大仏殿、大鐘 昭和10年ごろ(1935) |
右端に東大寺鐘楼と参拝者が大鐘をつく様子、中央に横からみた大仏殿と大仏、柱くぐりの様子、左端には南東から鏡池越しにみた大仏殿が描かれています。 |
奈良名勝漫遊三日の旅 表紙、猿沢池 昭和12年(1937) 個人蔵 |
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奈良市の観光名所を彩色のイラスト挿絵入りで紹介するガイドブックです。編集・発行者は京都の人で、印刷所は奈良の木原文進堂です。冒頭には、鉄道駅を起点とする2日間の奈良遊覧コースと諸料金の紹介、若草山麓にある旅館「むさしの」の宿泊・食事案内があり、続いて遊覧コースの行程に沿って、省線(現在のJR)と大軌(現在の近鉄)の奈良駅から始まる数々の名所や名物を紹介しています。会期中、場面替えをしながら展示いたします。 |
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