本文
題目立(だいもくたて)(重要無形民俗文化財、ユネスコ無形文化遺産)は、現在、上深川町(かみふかわちょう)のみに伝承される民俗芸能で、同町八柱(やはしら)神社の祭りの宵宮に、氏子の17歳前後の青年たちによって演じられます。
本史料はこの芸能の台本にあたるもので、「厳嶋」(いつくしま)「大仏供養」(だいぶつくよう)「石橋山」(いしばしやま)の3曲について、配役ごとに詞章(ししょう)をまとめた冊子(72冊)と、詞章を語る順番を記した「番帳」(ばんちょう)と呼ぶ冊子(9冊)が伝えられています。
題目立の関係史料は少なく、詞章は上深川のほかには、奈良市丹生町の丹生神社に天正3年(1575)ほかの年紀を有する「厳嶋」の詞章残闕5葉(奈良県指定有形民俗文化財)があるだけです。丹生神社本が片仮名書きであるのに対して、本史料は漢字交じりの平仮名書きで、随所にふりがなをふるなど、詞章を覚えるための工夫の跡が見られ、上深川の人たちがこれを使って題目立を上演してきたことがわかります。
題目立の内容を知ることのできる数少ない史料であり、その唯一の伝承地である上深川で、18世紀から近年まで実際に使用されてきたものとして貴重です。