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この具足は、徳川家康が慶長19年(1614)に漢國神社に参詣して奉納したものと伝えます。本作品のように前立(まえだて)を歯朶(しだ)形とした具足は家康に好まれ、甲冑師(かっちゅうし)岩井与左衛門(いわいよざえもん)によって家康にたびたび献上されており、本具足も与左衛門作である可能性が高いものです。中世~近世初頭の奈良は甲冑生産の中心地であり、なかでも岩井与左衛門は当社隣地に屋敷を構え、のち江戸に移り御具足師として徳川家に代々重用されました。与左衛門奈良在住期の作と推定される具足は、ほかに静岡・久能山東照宮の一領(重要文化財)と茨城・水戸東照宮の一領(県指定文化財)が知られる程度で貴重であり、優れた作行からも、本作品は市内における近世の甲冑の代表的作例といえます。
なお、江戸前期の漢國神社所蔵「漢国旧記」には、家康が与左衛門家に寄ったのち当社に具足を飾って参拝した経緯が記録され、後世の「御鎧之由来」にもこの由緒や与左衛門が家康に鎧を奉じた旨が伝承されます。また、漢國神社境内にはこの具足を奉安するため壇上に厨子を設けた鎧蔵(よろいぐら)が現存し、棟札に寛政12年(1800)の銘があり、江戸時代に具足が家康にかかわる神宝として尊重されていたことを示しており、歴史的価値も高いものです。
件名 | 茶糸威胴丸具足 附 漢国旧記 1冊 御鎧之由来・御兜之図 3巻 具足櫃 1合 |
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かな | ちゃいとおどしどうまるぐそく つけたり かんごうきゅうき おんよろいのゆらい・おんかぶとのず ぐそくびつ |
数量 | 1領 |
指定(分類) | 奈良市指定文化財(工芸品) |
指定日 | 平成16年3月3日 |
所在(有) | 奈良市漢国町6 漢國神社 |
小学校区 | 椿井 |
寄託 | 奈良国立博物館 |
形状等 | 胴高37.3cm 草摺高32.5cm |
備考 | 桃山時代 |