本文
愛染明王を中心に、不動明王と毘沙門天を脇侍として描いた絵画です。愛染明王には平安時代以降の数々の遺品がありますが、この二尊を伴うのは珍しく、ほかにはサンフランシスコ・アジア美術館蔵春日愛染明王曼荼羅図、山形・宝蔵院蔵愛染明王三尊仏龕などが知られる程度です。しかも本図は、不動明王と毘沙門天の各々の眷属(けんぞく)である矜羯羅(こんがら)童子・制吒迦(せいたか)童子、吉祥天・善膩師(ぜんにし)童子をも描いている点で、非常に稀な遺品です。愛染明王の画像は主に密教修法に用いられ、本図は守護神とされる不動明王と毘沙門天、さらに眷属をも付加することにより、強い効験を期したものと考えられます。
表現技法は、力強い衣文線や端正な截金(きりかね)文様といった鎌倉仏画の伝統的な表現に加えて、南北朝時代に流行する金泥盛上げの技法を用いており、目のつぶらな顔立ちに表すのも南北朝時代以降の作例に通じる特徴です。このような画風から南北朝時代の作と考えられ、保存状態は良好です。
愛染明王の作例中、稀な図様構成を示していて貴重であり、市内に伝わる中世の密教絵画の重要な遺品です。
件名 | 絹本著色愛染明王像 |
---|---|
かな | けんぽんちゃくしょくあいぜんみょうおうぞう |
数量 | 1幅 |
指定(分類) | 奈良市指定文化財(絵画) |
指定日 | 平成30年3月29日 |
所在地・所有者 | 奈良市秋篠町757 秋篠寺 |
小学校区 | 平城 |
寄託 | 奈良国立博物館 |
形状等 | 掛幅装 縦130.5cm 横121.3cm 裱背墨書「明治廿七年穐日/秋篠寺常什物 現住中西瑞雲修覆/爲〈瑞竜上人/釈専聴〉菩提」 箱蓋表墨書「愛染明王 秋篠寺」 箱蓋裏墨書「明治参拾四年五月 鑑空代」 箱身底墨書「愛染明王」 (/は改行、〈 〉は割書を表す) |
備考 | 南北朝時代 |