本文
本作品は、地蔵菩薩と、十王と総称される冥界の王などを描いた絵画です。十王は、順に亡者の罪業を裁いて、亡者が地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天という六道のいずれに転生するかを決定するといわれます。地蔵は六道の衆生を救うとされ、十王の一人である閻魔王の本身であるとも説かれます。地蔵十王図はそうした信仰に基づいて描かれ、中国の南宋~元時代の作や、それらを範とした鎌倉時代以降の作などが諸所に伝来していて、地蔵と十王が広く尊崇されてきたことを物語っています。来迎寺本はわが国で描かれた一例であり、地蔵1幅と、十王10幅のうちの3幅とが遺ったものと考えられます。
図様は、地蔵と王を中心として、僧・冥官・亡者らを配し、王の下方に地獄の景を描くという一般的な構図を基本としていて、諸本と同様の尊容もみられますが、ほかに類例の稀な特徴を備えています。地蔵については、右足を踏み下げる点が左足を下げる通例と異なっており、王の一人が笏(しゃく)を机に開いた巻子上に立てて持つのも珍しい姿です。奈河(三途川)の橋を渡る和装の女を描き、日本的な図様としていることも注目されます。帝釈天の軍勢の場面は、帝釈天と阿修羅の戦いを表しています。これは六道のうちの修羅を図様に摂り入れたもので、地蔵十王図の図様の展開を示し、重要です。十王図中に修羅を描く例は少なく、山梨県・向嶽寺本と熊本県・願成寺本が室町時代の作として知られますが、本図は軍勢の図様がそれらとも異なっていて貴重です。
作風は、描写が丁寧で、尊容に張りがあります。地蔵・王・官人らの顔立ちは宋元画に倣っており、暈取りや衝立の水墨山水図にも宋元画の精緻な陰影表現の模倣がみられます。その作画傾向は鎌倉~室町時代の地蔵十王図諸本と同様ですが、本図では表現が緩和されていてやや形式化に傾き、彩色が平明さを増すなどの様式的特徴が現れていることから、制作時期は室町時代と考えられます。
奈良市東部の絵画のうち中世に遡る古例であり、県内に伝存する地蔵十王図が数少ないことからも貴重です。また、類例の稀な図様を示し、わが国の地蔵十王図の展開を知る上でも注目すべき作品です。
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件名 | 絹本著色地蔵十王図 |
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かな | けんぽんちゃくしょくじぞうじゅうおうず |
数量 | 4幅 |
指定(分類) | 奈良市指定文化財(絵画) |
指定日 | 平成29年3月14日 (昭和45年3月7日 都祁村指定文化財) |
所在地・所有者 | 奈良市来迎寺町126 来迎寺 |
小学校区 | 都祁 |
形状等 | 掛幅装 (1)縦77.4cm 横40.9cm (2)縦90.3cm 横37.6cm (3)縦98.9cm 横37.7cm (4)縦88.5cm 横36.8cm 箱蓋表墨書「十王図」「都祁来迎寺」 |
備考 | 室町時代 |