本文
本図は、十六羅漢が侍者・竜虎などを伴って岩山に坐る情景を描いています。十六羅漢は、正法(しょうぼう)を護持する尊者として広く信仰され、中世には、中国からもたらされた宋(そう)・元(げん)時代の種々の十六羅漢像の図様に倣い、一幅に一体ずつ描く画像が盛んに作られました。さらに、それらの図様から像を抜き出して組み合わせた、新たな図様構成の作品も描かれました。その種の作品に東大寺の釈迦三尊十六羅漢像(奈良市指定文化財)などがあり、十輪院本もその一例となるものです。
十輪院本は、羅漢を二幅の画面全体にほぼ対称的に並置しています。羅漢のうち十四体は像容が東大寺本と一致し、しかも、肩越しに虎を見下ろす羅漢と、両手で錫杖(しゃくじょう)を執る羅漢という、類例の少ない図像を共有することが注意されます。東大寺本は鎌倉時代に南都で作られたと考えられる作品であり、この系統の羅漢の図像が南都に伝存していたものと推測されます。
諸尊の表現は、着衣に寒色を多用する点などに宋元画の影響がうかがえますが、穏やかな筆線と明快な彩色で柔和に描かれていて、和様化が著しく、しかも描写は粗放にならず入念で堅実です。このような特徴は、鎌倉時代の南都の伝統的な仏画の傾向に沿うものです。また、岩山と尖峰に素朴な筆法による水墨表現がみられ、鎌倉時代末頃の様式的特徴を示しています。これらのことから、本図は鎌倉時代末頃の絵仏師(えぶっし)による作と考えられます。
奈良市内に伝来した中世の十六羅漢像は十余例を数えるのみであり、その中でも、本図は制作時期が比較的古く、穏和な画態を示す秀作として貴重なものです。
件名 | 絹本著色十六羅漢像 |
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かな | けんぽんちゃくしょくじゅうろくらかんぞう |
数量 | 2幅 |
指定(分類) | 奈良市指定文化財(絵画) |
指定日 | 平成28年3月16日 |
所在地・所有者 | 奈良市十輪院町27 十輪院 |
小学校区 | 飛鳥 |
形状等 | 掛幅装 各縦96.4cm 各横51.0cm 【向かって左幅墨書】 ・巻止貼紙「宝 第五号」 ・巻止「十輪院什物」 ・裱背貼紙(1)「宗安/妙安/了安/妙因/眞入/眞貞/了貞/乗重/正貞/貞林/妙意/貞順/妙佐/妙薫/了玄/了意/了知/淨心/榮讃/妙蓮」(2)「奉寄進十六羅漢十輪院什物施主井戸屋理右衛門正弘」(3)「寶永七〈庚/寅〉年正月十一日」 ・裱背「知岳惠恩 智光/聖誉宗賢 榮空/妙了 知香/晴入 智貞/妙晴 春恍知幻/宗悟 玉空無量/諦應是觀 妙宏/心月妙喜 後光/誓應妙觀 正道/誓月妙榮 妙知/知光惠幻 妙誓/貞空栄後 徳浄/香山知薫 浄幻/浄秋智觀 梅薫」「弘化貮乙巳年五月山田理左衞門晴延再修補之」 【向かって右幅墨書】 ・巻止貼紙(1)「[十]六羅漢天正[五]年四月修補[之]金剛佛子快□」 (2)「宝 第六号」 ・巻止(左幅と同文) ・裱背貼紙(1)「宗安/妙安/了安/妙因/眞入/眞貞/了貞/乗重信男/正貞/貞林/妙意/貞順/妙佐/妙薫/了玄/了意/了知/淨心/榮讃尼/妙蓮」 (2)(3)(左幅と同文) ・裱背「天眞 道順/道安 不及/道喜 知温/妙林 超順/貞三 休眞/貞林 妙眞/喜安 貞閑/貞芳 道入/貞順 妙休/易往 可休/道可 正眞/了栄 知清/祐貞 妙雲/栄讃 光清/道有 貞教/妙貞 了入/道味 貞信」「弘化貮(以下左幅と同文)」 【箱墨書】 ・蓋表貼紙「宝第五、六号」 ・蓋表「十六羅漢御繪 二幅對 弘化貮年五月/山田理左衛門/釋妙誓爲菩提修補之」 ・蓋裏「十輪院快助」 (/は改行、〈 〉は割書、[ ]は推定文字、□は判読不能文字を表す) |
備考 | 鎌倉時代 |