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松山家は奈良町の中心部で戦前まで米問屋を営んでいました。南北通りに東面して2軒の町家が雁行して建っており、独特の景観を形成しています。
南側の主屋南棟は、平屋建、切妻造桟瓦葺で、正面に格子を構えています。軒の高さが低い点や、2階に居室を設けない点など、全体的に北棟より古い形式を示して、18世紀に遡り得る古い町家の例として価値があります。
現在は豆腐料理の店として親しまれています。
北側の主屋北棟は、主屋南棟より後退して建つ、つし2階建、切妻造桟瓦葺の町家です。正面に丸太格子を構え、庇上に虫籠窓(むしこまど)、両端に袖卯建(そでうだつ)を設けます。内部は、南側は通り土間で、北側に3室を1列に並べます。棟札(むなふだ)により建築年代が明らかで、奈良町の近世町家の基準作ともなり、歴史的景観の形成に大きく寄与しています。
昭和63年(1988)のなら・シルクロード博を機に民間資料館「奈良オリエント館」となり、平成12年(2000)から同27年(2015)までFM放送局として利用されるなど、広く親しまれています。
主屋北棟の後方に続く、平屋建、切妻造桟瓦葺の建物です。北側の中庭に面して廊下を配し、その南に浴室や便所を並べます。黄色の壁に下地窓を入れ、意匠の整った手摺りを付けた、瀟洒な建物です。中庭側には柱を立てず、開放的な空間を生み出しています。奈良町家の伝統的な中庭空間をよく示しています。
渡廊下の後方に南面して建つ、桁行約7メートル、梁間約5メートル、切妻造桟瓦葺の土蔵で、正面に庇が付きます。外壁は白漆喰を基調とし、両側面と背面は竪板張、正面の足下はモルタル塗とします。内壁は中塗り仕上げとし、荷摺木(にずりぎ)を取り付けます。奈良町において米問屋を営んだ商家の穀物蔵として、旧状をよく伝えています。
※荷摺木(にずりぎ)…蔵などの内部で、穀物のような重量のある荷物が壁に当たったときに、内壁が傷つかないように取り付ける部材のこと。
敷地西奥に東面して建つ、桁行約8メートル、梁間約6メートル、切妻造桟瓦葺の土蔵で、正面に奥行きの広い庇が付きます。麦蔵と同様に内部に荷摺木(にずりぎ)を取り付け、また規模が大きく、米問屋としての盛期を伝える建物です。
昭和63年(1988)に展示室になり、平成12年(2000)からは飲食店として利用されるなど、米蔵の空間を活かした活用が図られ、親しまれています。
松山家住宅 主屋南棟(中央)と主屋北棟(右奥)
渡廊下(左手)と麦蔵(奥)が奈良の町家の伝統的な中庭空間を構成
件名 | 松山家住宅主屋南棟 松山家住宅主屋北棟 松山家住宅渡廊下 松山家住宅麦蔵 松山家住宅米蔵 |
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かな | まつやまけじゅうたくおもやみなみとう まつやまけじゅうたくおもやきたとう まつやまけじゅうたくわたりろうか まつやまけじゅうたくむぎぐら まつやまけじゅうたくこめぐら |
数量 | 各1棟 |
登録(分類) | 登録有形文化財(建造物) |
登録日 | 平成27年11月17日 |
所在地 | 奈良市西新屋町 |
所有者 | 個人 |
小学校区 | 済美 |
構造形式 | 主屋南棟:木造平屋建、瓦葺、建築面積97平方メートル 主屋北棟:木造2階建、瓦葺、建築面積97平方メートル 渡廊下:木造平屋建、瓦葺、建築面積26平方メートル 麦蔵:土蔵造平屋建、瓦葺、建築面積45平方メートル 米蔵:土蔵造平屋建、瓦葺、建築面積71平方メートル |
年代 | 主屋南棟:江戸後期/平成12年(2000)改修 主屋北棟:文政12年(1829) 渡廊下:昭和前期 麦蔵:昭和前期 米蔵:昭和前期 |