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奈良町の中心部にあり、一刀彫で知られる森川杜園(※1)が建てたと伝わる町家です。
正面(東面)はつし2階の形式で、左右に出格子を構え、2階の軒は出桁(だしげた)で受けています。表屋造(※2)の形式で、南側に通り土間、北側に居室を並べます。正面の店舗の奥には坪庭があり、壁面に杉皮を使ったり、2階の窓から濡縁を出したりするなど、凝った意匠が特徴的です。江戸末期の伝統的な奈良の町家の特徴をよく伝える建物として、価値があります。
平成28年から店舗としても活用されています。
※1 森川杜園(もりかわとえん)
文政3年(1820)~明治27年(1894)。奈良の伝統工芸である奈良一刀彫(奈良人形ともいう)の多くの優れた作品を残した彫刻家。山田弥兵衛の名で狂言師としても活躍した。
※2 表屋造(おもてやづくり)
町家の形式のひとつ。通りに面した正面側を店舗、敷地奥側を居住部分とする。店舗と居住部の間の坪庭に面して玄関を設ける。
主屋の後方に続く、平屋建、切妻造桟瓦葺の建物です。中庭に面する北側を手摺付の縁とし、南側に浴室や便所等を配します。縁先には柱を立てず、長い腕木で桁を受けます。腕木や桁に丸太材を用い、板の継ぎ目を見せない軒裏とするなど、意匠を凝らした渡廊下です。
奈良の町家の伝統的な中庭空間をよく示しています。
敷地の奥に建ちます。間口4.9m、奥行7.6m、平屋建、正面入母屋造、背面切妻造、妻入、桟瓦葺。戦後に改造されていますが、かつては本舞台と後座(※3)からなる能舞台でした。
町家に附属する能舞台は希少で、江戸末期から明治前期にかけての奈良の伝統文化を伝える建物として価値があります。また、狂言師としても活躍した、森川杜園(とえん)にちなむ建物としても重要です。
※3 後座(あとざ)
能舞台において、本舞台の奥の部分。
佐埜家住宅 主屋 正面外観
佐埜家住宅 渡廊下 全景
佐埜家住宅 旧能舞台 正面外観