この原稿を書いている2月上旬には、月ヶ瀬からいただいた秘書室の盆梅も咲き、馥郁たる香りで来訪者を楽しませてくれています。3月と言えば二月堂の修二会が有名ですが、各社寺でもさまざまな伝統行事が行われます。冬を越えて春を迎えることに生命の循環を感じるとともに、自然に対する畏敬の念や祈りが自然と生まれたように感じます。
奈良は宗教都市とも言われますが、それは単に特定の宗教や施設、文化財等を指すのではなく、人々の「祈り」が歴史的・重層的に折り重なっている様を指すのだと思います。先日の若草山焼きに際して執り行われた、野上神社の祭典でも「幾多の国を襲いたる天地の禍に今も苦しみたる民」として、最近国内外で発生した戦禍や、自然災害に対する救いを求める件が祝詞の中にあります。奈良の社寺が歴史の中に留まらず、現在進行形であることを実感しました。世界から多くの人が訪れる価値の源泉でもあります。