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富雄丸山古墳から出⼟した国内最古で最大の蛇行剣を初公開 (令和5年6月27日発表)

更新日:2023年6月27日更新 印刷ページ表示
公開された蛇行剣

富雄丸山古墳出土蛇行剣の応急的な保存科学的処置について

1. はじめに

富雄丸山古墳範囲確認発掘調査(第6次調査)で出土した蛇行剣・鼉⿓⽂盾形銅鏡については、きわめて重要な考古資料と判断されるため、奈良県立橿原考古学研究所と奈良市教育委員会では「富雄丸山古墳共同調査研究に関する協定書」を締結し、遺物の取り上げや保存のための応急的な保存科学的処置を共同で進めています。

今回、片面の処置が終了した蛇行剣の報道公開にあたり、その応急的な保存科学的処置の経過、処置の内容、これまでに確認できた知見や今後の予定について説明します。

2.経過

2022年
  • 12月8日(木曜日)
    富雄丸山古墳発掘現場において、蛇行剣の取り上げ準備。蛇行剣の露出面にアクリル樹脂パラロイドB-72を塗布し、さらにガーゼ貼り付けにより補強の上、周辺の土壌ごと発泡ウレタンで固定
  • 12月9日(金曜日)
    蛇行剣の下部にアルミ板(20cm×30cm)を8枚差し込んで地面との縁切りを行い、取り上げ。梱包状態のまま奈良市埋蔵文化財調査センター(以下、奈良市埋文センター)へ搬出
2023年
  • 1月5日(木曜日)
    奈良市埋文センターにおいて、応急的な保存科学的処置の作業場となる奈良県立橿原考古学研究所(以下、橿考研)への移動準備。発泡ウレタン等による補強を実施
  • 1月6日(金曜日)
    橿考研保存科学棟に搬入。透過X線撮影(長大であるため14回に分けて撮影)。一本の蛇行剣であることを確認
  • 3月14日(火曜日)
    橿考研保存科学棟から橿考研本棟作業室へ移動
  • 3月15日(水曜日)
    発掘現場での取り上げのために巻いた発泡ウレタンを除去
  • 3月16日(木曜日)
    処置作業のために改めて周囲を発泡ウレタンで固定
  • 3月17日(金曜日)
    発掘現場において表面を補強していたガーゼ除去完了
  • 3月23日(木曜日)
    処置前の三次元形状計測
  • 3月28日(火曜日)~4月5日(水曜日)
    処置前の状況確認(観察)。剣先より実施。
  • 4月6日(木曜日)~6月8日(木曜日)
    クリーニング。竹串・有柄針・ピンセット・メス等を使用し、土やサビを取り除く。

3.応急的な保存科学的処置の内容

橿考研本棟作業室での作業内容は以下の通りです。なお、本棟作業室でのクリーニング作業の実働数は33日を要しました。

  1. 発掘現場で取り上げ作業のために処置した発泡ウレタンを除去
  2. クリーニング実施にあたり、改めて発泡ウレタンで周囲を固定
  3. 発掘現場で処置した蛇行剣表面補強のガーゼを除去
  4. クリーニング前に全体観察、表面状態や付着物の記録、写真撮影、三次元形状計測
  5. クリーニングを実施
  6. クリーニング後に全体観察、表面状態や付着物の記録、写真撮影、三次元形状計測

4.これまでに確認できた知見

  1. 鞘は木装(樹種は調査中)
  2. 柄頭・柄口・鞘口・鞘尻に漆を伴う装具痕跡
  3. 柄頭・柄口・鞘口の漆表面に赤色顔料による彩色
  4. 赤色顔料は、水銀を主成分とする辰砂(HgS:水銀朱または朱)
  5. 鞘口付近に、網目状組織を持つ漆層(下)と筋状組織を持つ漆層(上)の重なり

5.今後の予定

今後、現在下になっている面の処置を実施するため、上面を養生の上ウレタンで固定し、反転して作業を継続します。また、鞘に利用された木材(樹種)、漆層の重なり、朱の利用法(彩色範囲・朱の産地推定)等、現時点で明らかになった課題についても調査を行っていく予定です。

≪参考≫作業内容と使用教材について
  • 透過X線撮影:表面から見えない内部構造をX線で透過して観察する。【透過X線撮影システム(照射装置+画像化装置)】
  • 作業前記録:「作業前」の記録を取る【高精細非接触三次元デジタイザ、ミラーレス一眼デジタルカメラ、手術用顕微鏡、実体顕微鏡】
  • クリーニング:出土品の表面に付着する土壌やサビを除去する【手術用顕微鏡、実体顕微鏡、グラインダー(切削・研磨装置)】
  • 付着物の科学分析:処置の的確性や以後の工程を検討するため土壌や出土品に伴う素材調査を実施。材料と構造を見極めることにより製品としての評価にもつながる【非破壊X線回析分析装置、携帯型蛍光X線分析装置、顕微および光音響赤外分光分析装置】
  • クリーニング後の記録:形状や付着物の情報を記録【高精細非接触三次元デジタイザ、ミラーレス一眼デジタルカメラ、手術用顕微鏡、実体顕微鏡】
  • 各作業段階での室内環境維持【空気質清浄化装置】

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