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年末に澤田瞳子さんの「火定」という小説を読みました。これは奈良時代に疫病が流行した際、人々を守ろうと奔走する施薬院の医師らを描いた物語です。
驚かされたのは、この作品がコロナ禍より前に書かれたにもかかわらず、私たちが経験した大混乱を予見していたかのような点です。作中では、医学が未発達な中、えたいの知れない病への恐怖や不満がどのように街を覆っていくのか、人々の心の波が手に取るように描かれています。そしてその不安は、ある盗賊を中心とする民間信仰へと人々をあおり立てます。さらに矛先は渡来人への排斥運動へとつながっていきます。
現代の私たちも数年前にコロナ禍という未曾有の惨事に見舞われた際、過剰にかき立てられた不安が他者への攻撃に向くという構図を目の当たりにしました。私たちは千年を超える膨大な蓄積や経験から何を学び、今に生かすのか。歴史を鑑として考え抜くことが今、求められています。