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市立奈良病院におけるシステム障害に係る報告について
はじめに ~今回の事案と専門家会議の検証について~
令和8年4月21日、市立奈良病院で情報システム障害が発生し、電子カルテをはじめとする一部の医療情報システムが使用できない状態となりました。これにより、診療や検査、救急受入れなどに影響が生じ、患者の皆様やご家族、関係者の皆様にご不便とご心配をおかけしました。
発生当初はサイバー攻撃の可能性も否定できなかったため、病院では安全確保を最優先に、電子カルテの停止やシステムの隔離、救急受入れの一時停止などの対応を行いました。その後、厚生労働省の支援を受けて原因調査と安全確認を進め、順次、診療機能を復旧しました。
病院からの一連の報告を受け、奈良市では、本事案について客観的かつ専門的に検証するため、外部有識者による専門家会議を設置し、検証を行いました。
事案の概要と診療への影響について
令和8年4月21日夜、市立奈良病院において、院内ネットワークの通信を監視するセキュリティ監視装置が、リモート保守用中継端末からの通信を異常と判定し、自動的に通信を遮断しました。
その後、眼科システム、生体検査システム、電子カルテ本番系、医事サーバーなど、複数のシステムで警報が相次いで発生しました。病院では、サイバー攻撃の可能性も否定できない状況であったことから、被害の拡大を防ぎ、患者の安全を確保するため、対象機器や電子カルテの仮想サーバー群をネットワークから物理的に隔離しました。
このことにより、救急受入れの一時停止、外来診療や予定手術の一部延期などが生じました。
- 外来予約:約1,500件のうち約500件を延期
- 予定手術:56件のうち18件を延期
- 救急受入れ:約53時間停止
4月22日には、厚生労働省から支援チームが派遣され、病院とともにログの分析やシステムの安全確認を進めました。安全性を確認できた端末やシステムから順次復旧し、4月23日には電子カルテ本番系を再稼働、4月24日には通常診療を再開しました。その後も確認作業を継続し、5月13日にはオンライン資格確認システムを含む主要なシステムがすべて復旧しました。
なお、調査の結果、患者情報や診療記録の改ざん・漏えい、ウイルス感染、バックドアの設置など、システムへの侵害を示す痕跡は確認されませんでした。
奈良市医療情報セキュリティ専門家会議について
奈良市では、市立奈良病院で発生した情報システム障害について、原因を明らかにするとともに、発生後の対応や再発防止策を客観的かつ専門的に検証するため、外部有識者による「奈良市医療情報セキュリティ専門家会議」を設置しました。
専門家会議では、次の4つの観点から検証を行いました。
| 観点 | 検証・確認した内容 |
|---|---|
| 原因の特定 | 警報や通信遮断が発生した経緯について、システムの更新履歴、各種ログ、関係者への聞き取りなどをもとに検証 |
| 発生後の対応の適切性 | サイバー攻撃の可能性を否定できない状況で行われた、システムの隔離、電子カルテの停止、診療制限、復旧判断などについて検証 |
| 再発防止の適切性 | セキュリティ監視装置の運用見直し、外部接続経路やアカウントの点検、今後のシステム更改に向けた対策などについて検証 |
| 今後に向けた提言 | 同様のシステム障害や実際のサイバー攻撃に備え、市と病院が取り組むべき対策についての提言 |
奈良市医療情報セキュリティ専門家会議 メンバー
専門家会議は、情報セキュリティ、危機管理、組織統括、企業法務などの専門家で構成されています。
| 氏名 | 所属/役職 |
|---|---|
| 猪俣 敦夫 氏(座長) | 大阪大学D3センター 教授 CISO |
| 板東 直樹 氏 | 一般社団法人ソフトウェア協会 フェロー |
| 北條 孝佳 氏 | 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 パートナー弁護士 |
会議・ヒアリングの実施経過
会議では、病院や関係事業者への説明・聞き取りを行い、資料やログなどを確認しながら検証を進めました。
| 日時 | 会議名/ヒアリング項目 |
|---|---|
| 令和8年6月2日 | 第1回専門家会議 |
| 令和8年6月30日 | 電子カルテシステム事業者への聞き取り |
| 令和8年7月2日 | ネットワーク監視装置事業者への聞き取り |
| 令和8年7月13日 | 市立奈良病院への聞き取り |
| 令和8年8月31日 | 第2回専門家会議 |
原因の特定 ~なぜシステム障害が起きたのか~
専門家会議では、病院が実施した調査結果や関係者への聞き取り、システムの更新履歴・各種ログなどをもとに、今回のシステム障害の原因と発生過程を検証しました。
その結果、今回の障害は、外部からのサイバー攻撃によるものではなく、セキュリティ監視装置の監視対象の変動により、十分に学習されていなかった院内通信が平常時のパターンからの逸脱と判定され、自動遮断が連鎖したことによるものと整理されました。
発生の経緯は、次のとおりです。
- セキュリティ監視装置の監視状態が、何らかの要因で変化し、一部の院内通信が一定期間、十分に監視されていない状態になっていた可能性が確認されました。
- 4月21日夜、セキュリティ監視装置のソフトウェアが自動更新され、装置が再起動しました。
- これを契機に、それまで十分に監視されていなかった通信が再び監視対象となり、監視対象となる端末等が633台から1,954台へと約3倍に増加しました。
- 従前十分に学習されていなかった院内通信が一斉に監視対象となった結果、セキュリティ監視装置が平常時パターンの逸脱と判定し、通信を自動的に遮断しました。
- その後、複数のシステムで警報と通信遮断が相次ぎ、電子カルテを含む病院情報システムに影響が広がりました。
なお、過去にセキュリティ監視装置の監視状態が変化していた具体的な原因については、原因特定に必要な過去の詳細なログの保存期間に限りがあり、十分な確認ができなかったため、特定には至っていません。
対応の適切性
専門家会議では、今回の障害発生後に市立奈良病院や奈良市が行った対応について、当時把握できた情報や状況を踏まえて検証しました。発生当初は、サイバー攻撃によるものか、システム上の問題によるものかを直ちに判断できない状況でした。そのため、病院では患者の安全と被害拡大の防止を最優先に、次の対応を行いました。
- 異常が確認された機器やシステムの隔離
- 関係事業者への照会
- バックアップの保護
- 電子カルテの停止
- 救急受入れの一時中止
- 外来診療の制限
- 安全性を確認したシステムからの段階的な復旧
専門家会議は、当時の状況を前提とすれば、これらの一連の対応には相応の合理性が認められると評価しました。
また、奈良市が事案発生後、市長によるSNSでの発信などを通じて、早期に情報提供を行ったことについても、患者や市民への迅速な情報提供につながったと評価しています。
再発防止の適切性
専門家会議では、病院が講じている再発防止策の方向性について、妥当であると評価しました。一方で、実際の緊急時に確実に機能させるためには、判断基準や対応手順をさらに具体化する必要があると指摘しています。
病院が進めている主な対策
- セキュリティ監視装置の自動更新を停止し、手動更新に変更
- 更新後の通信状況を一定期間確認
- 外部から接続できる経路を点検し、不要なVPNなどを閉鎖
- 保守用アカウントを棚卸しし、不要なアカウントを整理
- 管理者権限、保守接続、端末防御などの対策を次期システム更改に反映
さらに具体化が必要な事項(監視装置・運用に関する対策)
- 監視不能状態や監視対象数の異常な増減を早期に把握する方法
- セキュリティ監視装置の更新前後における確認・記録の手順
- 異常が発生した場合の確認、承認、更新の切戻しの手順
- 重大事象発生時に必要なログや設定変更履歴の保存方法・保存期間
- 警報発生時の確認事項と初動対応
- 自動遮断を適用する条件や、遮断を解除する判断基準
- 電子カルテなどのシステムを段階的に復旧する手順
専門家会議は、自動遮断機能を維持する場合であっても、その有効性だけでなく、誤検知によって診療に影響が生じる可能性も考慮し、状況に応じた適用条件を定める必要があるとしています。また、自動遮断だけに依存せず、複数の対策を組み合わせることが重要であるとしています。
さらに、重大事案が発生した際の市、病院、関係事業者の役割や判断権限、報告・連絡方法などを平時から整理し、関係者が連携して対応できる体制を整備することも求められています。
今後への提言
今回のシステム障害について、専門家会議からは、市立奈良病院だけでなく、同様のセキュリティ製品や医療情報システムを利用する医療機関にも参考となる提言が示されました。セキュリティ監視装置の自動遮断機能は、サイバー攻撃による被害の拡大を防ぐうえで有効な一方、正常な通信を誤って遮断した場合には、診療に影響を及ぼす可能性があります。そのため、監視状態や更新管理、ログの保存、関係者間の連絡・判断体制について、重大事案が発生してから対応するのではなく、平時から継続的に確認・見直しておくことが重要です。
医療機関において平時から確認しておくべき事項
- アップデートのルールを定める
自動更新と手動更新の使い分けや適用条件、更新前後の確認事項、異常が発生した場合の対応や切戻し手順を整理する。 - 自動遮断の運用を定める
被害拡大を防ぐ効果と、誤検知によって診療に影響が生じるリスクの双方を考慮し、自動遮断の適用条件、確認手順、復旧手順をあらかじめ定める。 - 監視が正常に機能しているか確認する
セキュリティ製品を導入するだけでなく、監視不能な状態になっていないか、監視対象数に異常な増減がないかなどを継続的に確認し、必要に応じて関係事業者へ照会する。 - 必要なログを保存する
重大事案が発生した際に原因を検証できるよう、必要なログや設定変更履歴の種類、保存範囲、保存期間をあらかじめ整理する。 - 緊急時の意思決定ルールを明確にする
診療の制限やシステムの緊急遮断を誰が判断するのか、報告先や連絡体制、関係事業者との役割分担を平時から整理する。
病院情報システム全体のセキュリティ強化
専門家会議からは、今回の障害の再発防止に加え、実際のサイバー攻撃にも備えるため、セキュリティ監視装置だけに依存しない多層防御の考え方が重要であるとの指摘がありました。今後、次のような対策を組み合わせ、病院情報システム全体の安全性を高めていく必要があります。
- 認証・権限管理の強化
管理者権限を必要な人に限定し、利用者や管理者を個別に識別できる管理を行う。 - 外部保守接続の安全性向上
病院外からの接続について、本人確認、接続経路、接続記録などを適切に管理する。 - ネットワーク構成の見直し
一部の端末やサーバーが侵害された場合でも、他のシステムへ被害が広がりにくいよう、ネットワーク分離や通信制御を強化する。 - 旧来の技術・設定の見直し
セキュリティ上のリスクとなり得る古い機能や設定を見直し、事後検証に必要なログや記録を確保する。
奈良市の今後の対応
奈良市では、今回の検証を一過性のものとせず、市立奈良病院が進める再発防止策や専門家会議からの提言が、実際の改善につながっているかを継続的に確認します。
再発防止策の実施状況を継続的に確認
市立奈良病院に具体的な実施計画の提出を求めた上で、対策の進捗状況や完了状況を定期的に確認します。
確認にあたっては単なる書面上の自己申告にとどまらず、客観的な証跡(証拠)の提出を求め定期的な確認を行います。
重大事案を速やかに把握できる体制の整備
今回の事案では、市長をトップとする市と病院のオンライン会議を複数回開催し、情報共有を行いました。今後は、診療機能の制限や一時停止につながるような重大事態が発生した場合に、時間帯を問わず奈良市へ速やかに報告されるよう、報告対象や連絡方法を整理し、重大事案が発生した際に、市が必要な情報を迅速に把握し、病院と連携して対応できる体制を整えます。
関係機関への情報提供と国への要望
奈良市と市立奈良病院がそれぞれの役割を果たしながら、安全で安定した医療提供体制の確保に取り組みます。また、今回得られた教訓を、市内の医療機関や国にも共有してまいります。
奈良市は、今回の事案から得られた教訓を今後の取組に生かし、病院、関係事業者、国などと連携しながら、より安全で安定した医療情報システムの実現を目指します。
