本文
奈良月ヶ瀬で茶業を継ぎ、食卓を紡ぐ。移住者・川崎さんちの里山暮らし(移住者インタビュー)
目次
奈良月ヶ瀬のこと
川崎さんちのこと
お茶農家になった健次さん
咲さんがつくるお昼ごはん
いさおさんとまりちゃんに聞く地元の声
わたしたちに相談ください
奈良月ヶ瀬のこと
7地区からなる「奈良市東部地域」は、奈良市のなかでも自然豊か。里山暮らしに適したエリアです。その一つである月ヶ瀬(つきがせ)地区は、お茶づくりが盛んなやまあいの地域です。
近鉄奈良駅からは車で1時間ほどで到着。バスでも行くことができます。
茶畑で、作業をしている農家さんに話を聞いてみました。
「月ヶ瀬のお茶づくりがいつごろはじまったかは、わからないのよ。だけど明治時代の品評会の賞状が出てきてね。その頃には、はじまっていたみたい」
月ヶ瀬地区は1,200人が暮らす地域です。人口350,000人の奈良市全体からみると、けっして大きくはありません。だけど、訪ねてみると小さくも感じません。
理由は、時間にあります。200年以上も茶業を営み、美しい風景をつづける人、梅の季節を迎えると毎年訪れる人。風景のなかにいくつもの時間が塗り重なっているからです。
脈々と流れる時間の上に「あらたな暮らし」を積み重ねる人たちを訪ねました。
川崎さんちのこと
川崎健次(けんじ)さんと咲(さき)さん。ふたりは2022年に結婚。1歳になるお子さんとともに、元料理旅館という立派なおうちに移り住みました。
お茶農家になった健次さん
健次さんは、月ヶ瀬からは車で1時間ほどの奈良県葛城(かつらぎ)市出身です。
大学卒業後、県外で就職。スイミングスクールのインストラクターとして、大阪府や愛知県で働きました。やがて「里山暮らしがしてみたい」と思い立ち、2015年に月ヶ瀬地区の地域おこし協力隊になりました。
田んぼを借りてお米を育ててみる。おばあちゃんたちに習って、味噌をつくってみる。月ヶ瀬の人たちに支えられながら、自分の暮らしを一つひとつ立てていく健次さん。
「この先も月ヶ瀬にいようと思ったんです」
1年間の任期が終わると、地域の農業法人へ就職しました。
月ヶ瀬に居つづける上で、第一に考えたのは仕事でした。
三重県との県境に位置する月ヶ瀬地区。車で20分ほどの三重県伊賀市へ通勤する選択肢もありましたが、自分で仕事をつくることに楽しみを見出します。
2019年には、お茶農家として独立しました。
安く譲り受けた農機具も活用しつつ、借り受けた3ヶ所の茶畑からのスタートでした。はじめは副業をしていましたが、農家さんとの縁が深まるなかで「後継ぎがいないうちの茶畑も管理してほしい」と頼られることが増えていきます。つい先日も、あたらしい茶畑を借りたばかり。気づくと、10ヶ所以上の茶畑を管理するように。
「辞めていくところもあるなかで、月ヶ瀬の茶畑を残していきたいんです」
お茶農家には、管理と収穫という2種類の仕事があります。多くの人手を必要とするのが、春と秋の収穫。かつては月ヶ瀬のお母さんたちが担ってきた季節仕事です。
しかし地域の高齢化に伴い、あらたな仕組みが求められていました。そこで健次さんは、コーディネーターとして、援農者と月ヶ瀬の農家さんをつなぐことに。収穫をともに行う援農者を全国から募り、自宅の離れを滞在拠点として活用しています。
川崎さんのご自宅
「後継者を必要としている農家さんもまだまだいますし、援農をきっかけに月ヶ瀬が好きになり、お茶農家を継いで暮らしていく可能性はあると思います」
お茶農家として独立し、人とつながり、月ヶ瀬の困りごとから仕事を生み出す。そうして自分の人生を手づくりする健次さんは、月ヶ瀬に暮らして10年。周囲からは「厚みが増したね」とも言われます。
自分がゆたかに生きることと、地域がゆたかに続くことが地続きであるような印象を受けました。
咲さんがつくるお昼ごはん
健次さんとともに暮らす咲(さき)さん。生まれ育った石川県で、看護師として働いてきました。
「仕事をやめたタイミングで、農業の季節労働に参加してみたんです」
その縁で出会ったふたり。咲さんは2022年に月ヶ瀬へ移り住みました。
実家暮らしのころからよく兄弟にごはんをつくっていたという咲さん。月ヶ瀬のお昼ごはんを訪ねました。
ちなみに月ヶ瀬にはスーパーがありませんが、三重県伊賀市に行けばたいていの食材は揃うとのこと。また、持続可能な地域づくり「Local Coop大和高原プロジェクト」に取り組む月ヶ瀬地区では、郵便局やイオンとの連携により、奈良市内から生鮮食品が配達されるサービス「おたがいマーケット」も行われています。
台所を見ていると、バーコードや食品ラベルが貼られた食材の少なさに気づきます。その代わり、一つひとつの食材の向こうに、人の顔が見えます。
この日はカレーライス。
「食器はもともとこのおうちにあったものです。野菜は半分がうちの畑で収穫して、半分はいただきもの。日陰で育てたゴーヤは苦味がすくなくて食べやすいんですよ」
「味噌汁のお味噌は、健次さんが2016年に仕込んだ年代もの!月ヶ瀬のお母さんたちは樽でたっぷり仕込むから、9年経つ今も食べきれません(笑)」
お皿の上には、いくつもの時間が流れているようです。
よく冷えたほうじ茶とともにカレーを食べ終えると、自家製の抹茶をたてはじめた咲さん。
そこへ牛乳を注ぐと、抹茶オレの完成です。
濃厚な牛乳にもまけないお茶の香りに包まれる、至福のひとときがありました。
咲さんにとって、月ヶ瀬の関係案内所のような存在になった人たちを訪ねます。
いさおさんとまりちゃんに聞く地元の声
向かった先は「ロマントピア月ヶ瀬」。オートキャンプ場であり、こんにゃくづくりなどの体験講座や食堂も営む、のどかな複合施設です。
ここに「いさおさん、まりちゃん」と咲さんが呼び慕うふたりがいます。ロマントピア月ヶ瀬の館長をつとめる小西さん夫妻です。
月ヶ瀬地区には、100年以上の歴史をもつ月ヶ瀬梅林があります。
一面に梅の花が咲きほこる景色は、桃源郷ならぬ“梅源郷”。毎年3月から4月にかけては、県内外から多くの人が月ヶ瀬を訪れます。ロマントピア月ヶ瀬も、たい焼きやうどんを提供する食堂に。
この場をともに切り盛りする人を探していた、まりちゃん。咲さんと出会ったその日に「いい子や、いっしょに働いてほしい」と直感しました。
「はじめて会ったのは2022年の9月やったな、咲ちゃんはなんでも興味持ってくれて。ロマントピアがおうどんするときに、手伝ってくれるねん。『できます、やってみたい』って咲ちゃん」
頼られごとはだんだんと増えていき、今ではオートキャンプ場の宿泊予約も任されるように。
咲さんとは、仕事だけのお付き合いではないとまりちゃん。
「咲ちゃんが奈良市街へ出かけるときに、子どもを預かることもあるのよ」
ここで、お茶農家でもあるいさおさんが、玉露のおいしいお茶を淹れてくれました。
咲さんが差し入れた抹茶のシフォンケーキとともに今日のおやつです。
「月ヶ瀬に新しい風を吹かせていきたいわな」といさおさん。こう続けます。
「月ヶ瀬に代々200年以上も住んでいると、生活が凝り固まっていく部分もある。月ヶ瀬に遊びにきてくれる人がいたらうれしいし、住んでくれたらもっとうれしい。ぼくらはつい『どこから来たん、なにしてたん』と聞いてしまうのだけど、本心はみんな仲良くしたくて仕方ないんだ」
むすびで、咲さん。
「冬になると、ロマントピア月ヶ瀬やワーケーションルーム『ONOONO』で、Youtubeを見ながらみんなで味噌を仕込むんです。味噌っていろいろな人の菌を入れることでおいしくなるから、みんなでつくります。おもしろそう、と思った人は遊びにきてくださいね」
いろいろな人の手が重なりあうなかに、月ヶ瀬暮らしはあります。
わたしたちに相談ください
窓口のご案内
月ヶ瀬地区をはじめとする「奈良市東部地域」での里山暮らしに興味のある人は、こちらまでお気軽に問い合わせください。
奈良市役所 総合政策部
秘書広報課 移住定住促進係 奈良市移住歓迎担当
TEL:0742-34-4710
E-mail: teiju●city.nara.lg.jp(●を@に変更しメールを送信ください)
オンライン移住相談も実施!
(編集 大越はじめ/アシスタント 奥田しゅんじ/写真 中部里保)
関連リンク
- 奈良市東部地域プロモーションサイト「さとやま」
月ヶ瀬を含む、奈良市のさとやまエリアの観光・イベント情報などをまとめたプロモーションサイトです。 - Local Coop大和高原
約700年の歴史を誇る梅の名勝地 月ヶ瀬(つきがせ)を拠点に、住民の”共助”と”自治”による持続可能な地域づくりを行うプロジェクト。 - 「奈良市版自分ごと化会議」を月ヶ瀬地域で開催
地域住民が身近な問題や地域の未来などを自分ごととして考え、意見を出すことができる機会を創出することを目的にとして開催。 - 月ヶ瀬ワーケーションルームONOONO<外部リンク>
旧月ヶ瀬学校給食センターを改修し、ワーケーションおよび地域住民の交流拠点として再生した新しいスタイルのワーケーションルーム - Taste Nara『ならじかん』―大和茶―