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金沢、大阪、鎌倉、京都、これまで全部抱きしめて奈良で夜カフェしてみる。片山由希子さん(移住者インタビュー)
目次
片山さんのこと
日本各地で働いたのち、奈良市に帰り、 INTERSPACE LAB.(インタースペースラボ)をはじめた片山由希子さん。
高校時代は、奈良を離れたくて仕方がなかったそう。 「いろんなものを見たかったけど、奈良にはいろんなものがない。戻る気はぜんぜんなかったんです…!」
高校卒業後は美術大学へ。空間デザインを学び、人の集まる場所づくりが好きになりました 。働きはじめると 金沢、大阪、鎌倉、京都へ。
「雑貨のバイヤー、Webディレクター…朝から真夜中までとにかく働いてたんですよ。住みたい部屋に住んで、洋服も、アクセサリーも、ほしいの全部買って。コスメもみんなつかってるいいの選んで」
「ずっとしあわせになりたかったんですよね。そうなるには『こうしなきゃ』と目標を決めて、寝る間を惜しんで、三倍速で走り抜けていくものだと思っていたんです。ちゃんと仕事して、夢をもって、結婚して、家をかって」
憧れて東京で働いたこともありましたが、水が肌に合わず一日で離れます。
「これからは銭湯と図書館があるところに住もう」とマイルールを決めて移り住んだ京都。ここで暮らして いるとき、お母さんが亡くなります。
「ほしいものは全部持っているはずなのに、むなしい。以前からぼんやり感じていたことが、明らかになりました」
そして、こう思います。
「人生ってみじかい!わたし、こんなに働いてばかりでいいのかな?」
そのころ、京都でこんなこともあった。
有機野菜を買おうと八百屋さんに入ると、奈良県産の野菜たちが立派な値札をつけて並んでいた。ふと、おいしい野菜やお米が力むことなく手に入る奈良を思い出します。
「帰ってきたらいいかな」
片山さんは2020年から今日に至るまで、奈良で暮らしています。大人になってからというもの、5年以上同じまちに住むのは、はじめてのことでした。
これまでいろいろなまちに住んできたことも、今につながっています。 コミュニティが息づき、地域のことを考える人が多く暮らすまちに触れてきた片山さん。
なくても生活に困りはしないけれど、あれば生活をゆたかにしてくれる。そんなアトリエの ような場所を 、おさななじみのデザイナーはまださんと探すなかで、2階建ての古民家と2021年に出会います。近鉄奈良駅から歩いて10分。猿沢池からもほど近い好立地ながら、路地のつきあたりにある築140年ほどの空間。これまで飲食店や雑貨店としてつかわれてきたその佇まいは、秘密基地のようでした。
はまださんのつてで出会った大家さんからは「ゆくゆくは解体の可能性もあるから」とのことで、原状回復は不要。賃料も、片山さんが働きながら払える範囲内でした。
当時は会社員として働いていた片山さん。土日になると一人で掃除をして、壁のしっくいを塗っていきます。だけど、これがなかなか大変で。丸1年かけてようやく1階を手入れしたところで、心が折れかけます。「2階をどうしよう…」その様子を知った、友人の設計士・ kurashitoの芳野さんが手伝ってくれたことで、2階の壁もきれいになりました。 ロゴデザインは、はまださんが手がけました。
「働いていなくても、夢なんかなくても、結婚していなくても、家を建てていなくても、何者かにならなくても、いいんじゃないかな。誰でも来ていいし、誰でもいていい場所があってもいいんじゃないかな」
「こうしなきゃ」という明確な決まりごとを決めることなく、出航したINTERSPACE LAB. 。ここで片山さんが、2023年2月から毎月最終金曜日に開催しているのが、 夜の読書カフェ。19時から22時の間、読書にどっぷりふける時間です。
「京都大阪に住んでいたとき、『夜カフェサイコー!』と思ってて。たまらなくすきだったんです。だけど、奈良にはなかなかない。どうしてもほしくて、自分ではじめました」
はじめたから、気づけたことがある。
「『いろんなものがない』と思っていた奈良だけど、ほしいものを自分でつくる可能性はめちゃくちゃあるんだ 」
きたまち Fu-raさんのこと
だんだんと「こうしなきゃ」を手放す準備をはじめた片山さん。 二枚めの名刺ともいえる INTERSPACE LAB.の営みをつうじて、自分がゆっくりほぐれていきます。そして余白の多いこの場の営みが、片山さんを思いがけない出会いへとつないでいきます。
「ここがあることでいろいろな人が認識してくれるようになり、つながりが生まれやすくなりましたね。“片山由希子”は知らなくても“INTERSPACE LAB.”はなんとなく聞いたことがあるというように」
不特定多数のだれとでもつながろうとするのは大変。INTERSPACE LAB.は、だれかとちょうどいいつながり方を研究する場でもありました。
「入口の門をくぐっても、細い路地で引き返す人もいます。人づてで訪ねてくる人か、勇気のある人こそ辿りつける空間かもしれません(笑) 逆にいえば、ここで出会った人とは、のちのちまでつながる確率が高くて」
その入口の門をくぐり、細い路地の先でつながった一組が、Fu-ra(フーラ)さん。奈良市のきたまちで、エプロンのアトリエショップを営んでいます。
出会いは、2022年11月にINTERSPACE LAB.が友人の協力ではじめて開催したイベント「 小商いのためのインヴォイス講座 」。
同じくきたまちでお菓子工房を営んできたSomi sweets&coffeeさんに紹介されて訪ねてきてくれたFu-raの朝田さんは、この空間に足を踏み入れると、ひらめきました。
「ここに、Fu-raのエプロンを並べてみたい。いや、エプロンだけじゃなく、よいものを並べてみたい。この空間を営んでいる片山さんなら、話を聞いてくれそうだなって」
活用してもらえるのだったらぜひ、と二つ返事をした片山さん。そうして生まれたのが「つねづね良品」でした。
ここで何かをはじめたい人の「困っていそうやな」を見つけては、ひっそりこっそり関わり、形になっていく。“オーナー”というよりは“こびと”のような存在の片山さん。 INTERSPACE LAB.で飲食店営業許可を取得しました。 これまでの経験を活かし、イベント前には、ディスプレイも手伝いました。2023年3月に行われた第一回目の「つねづね良品」は、大盛況のうちに幕を閉じます。
エプロンの制作販売を行うFu-raさんにとって、イベントの企画開催は大きなチャレンジでした。
「心配だらけの気持ちで、緊張してドキドキしながら迎えた当日。たくさんのお客さんが来てくれたんです!」
そして、出展者のみなさんとのあたらしい関係もはじまりました。
Fu-raとINTERSPACE LAB.の間から生まれた「つねづね良品」は2024、2025年と続けて開催。Fu-raさんの1年間のリズムをアップデートしていきます。
そんなFu-raさんの玄関に、飾られた一枚の写真。
活動をはじめてまもなく、畑でお店をひらいたときのものです。その後は小屋を借りて、古民家を借りて。
今に至るまでの節目が、人との縁からはじまってきたFu-raさんとの出会いは、三倍速で走り続けてきた片山さんの足どりをトーンダウンさせます。
「わたしは転職繰り返してるし、失敗いっぱいしてるし、なにも成し遂げてないし。周りの人からは『こいつ大丈夫か』って思われるかもしれない。だけど、内心では大丈夫と思っていて」
フリーキッチンに並ぶ沖縄のやちむん、大学時代の友人がつくってくれた茶碗、海外の骨董品、そして長い旅の中で集めた料理本。これまでいろいろなまちを転々としてきた片山さん。集めてきた引っ越し道具の大半を占めていた本と器は、INTERSPACE LAB.に点々と散りばめられています。それらを眺めていると、ここは金沢でも、大阪でも、鎌倉でも、京都でもあって。 どこを旅して歩いて、何を見てきたのか。たどり着くまでがそのお店をつくっ ていることに気づかされます。いろいろな時間とまちのあいだを浮遊するこの空間で、片山さんは今月も夜カフェをしています。
(編集 大越はじめ/アシスタント 奥田しゅんじ/写真 中部里保)
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