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お試し移住体験を経て東京から移住―すべての魅力が徒歩圏に―(移住者インタビュー)
田中さん夫婦(奈良町宿「紀寺の家」)
職業:自営業
移住を考えはじめたきっかけ -すべての魅力が徒歩圏にー
移住を考え始めたのは、コロナ禍でリモートワークが中心となり、どこでも仕事が可能になったことがきっかけです。
じゃあどこに移住するかと考えた時、出身地である関西圏(京都・大阪・奈良)あたりが良いかと漠然と思っていました。昔(妻が)仕事で奈良県を担当していた時期があり、2人で遊びに行った記憶もあったので、「奈良はどうなんだろう?」と2人で気になってはいました。
それである日、所属しているバンドサークルのイベントで大阪に行く機会があり、リハーサルの前日入りの時に、たまたま宿泊したのが奈良市でした。
ちょっと奈良町の辺りを歩いてみたら、その雰囲気の良い街並みに魅了されました。さらにその足で奈良公園、春日大社、二月堂、大仏殿と巡ってみると、まあなんと豊かなまちだろう!と引き込まれました。
二月堂からの眺望(田中さん撮影)
たくさんのおしゃれなお店、落ち着いた街並みと自然、さらに歴史遺産という風に「すべてが徒歩圏」で繋がっているのが最大の魅力です。それでいて、仕事で大阪へ出張となっても、45分程で心斎橋に出ることができるなど、田舎と都市部のどちらの面も持ち合わせています。
奈良の町家(古民家)との出会い
奈良で暮らしたいとは思っていましたが、賃貸マンションに住むというのも何か違う気がしていました。
ある時、東京の松屋銀座のフェアに奈良町宿「紀寺の家」が出展しており、オーナーさんが「奈良の町家」について熱く語っていたのが印象的でした。そのオーナーさんの姿とユニークな町家宿のお話を聞いて「古民家での暮らし」に意識が向きまして、今度奈良に行くときはぜひここに泊まってみようと思いました。
奈良町宿「紀寺の家」の外観
いざ奈良町宿「紀寺の家」に泊まってみると、古民家がまあ快適で、こういう日本家屋ならではの上質な空間で暮らせたら良いなあ!と改めて実感しました。
それで町家の物件を探し始めると、修繕中の町家が見つかりまして「ちょっとやってみるか!」と移住を決心しました。
お試し移住を開始
物件も見つかり移住を決心すると「移住先で仕事が回せるのか」「町家での生活が体に馴染むか」などが不安でした。
そこで長期間滞在し暮らしを体験する「お試し移住」を奈良町宿「紀寺の家」でやってみることにしました。
宿所の縁側からの景色
お試し移住は(1)1週間(9月)、(2)2週間(10月)、(3)2週間(11~12月)、の3回に分けて実施しました。
最初の1回目は月曜日も週末も1回しかないので、観光的な面もあるワーケ―ションのような過ごし方で終わりました。
翌月に実施した2回目は2週間の滞在だったので、生活を循環させないといけなくなります。それで、仕事のやり方や快適な過ごし方などの生活リズムが分かってきました。
3回目では奈良市の冬の季節を体験することができました。お試し移住を3回に分けたことで奈良の季節による寒暖差なども分かったのがよかったです。9~10月は縁側で過ごしたりしていましたが、12月では早々に窓を閉め切って、家の中でゆっくり過ごしました。
「ラ・トラース」のピスタチオケーキで一服(田中さん撮影)
一棟貸の宿所でお試し移住を実施してみて、特に良かったのは自炊ができたことです。
生活リズムが把握できることは勿論、地元のスーパーに行ってお買い物することで、想像以上に奈良のお魚が美味しいことが分かったりして楽しかったです。お野菜も東京に比べて安く、新鮮なものが多かったです。
宿所での自炊(田中さん撮影)
お試し移住中のリモートワークの内容は、東京も奈良も特に違いはありません。ただ、リモートワーク後のオンオフの切換が奈良では簡単にできました。
東京では、リフレッシュしようとマンションを出て買い物に行くにしても、物を買ってそれで終わりになってしまいます。
しかし奈良では、休憩時間にちょっと外にでればお寺が見えて、そのままお店に行けば店主さんと気軽にお話しができたりと、仕事とは違うリズムに切り替えられました。
リモートワークの様子(田中さん撮影)
最初は同じ所ばかり巡って飽きてしまうのではないかと心配にもなりましたが、興福寺の五重塔はいつ見ても美しいし、自然は季節ごとに変化があって、歴史情緒がある町には美味しいお店がいっぱいあるなど、文化的な刺激があふれています。ここなら豊かな日常が静かに送れると思いました。
散歩途中に見る興福寺五重塔(田中さん撮影)
鹿さんとのコミュニケーションも良いリフレッシュ(田中さん撮影)
奈良市はまるでイタリア ー人から人へと繋がっていくー
私(奥様)がイタリア語を学んでいた関係でイタリアに長期滞在していたのですが、奈良市の古い歴史の情緒のある町、"顔の見える"個人のお店がたくさんある町の雰囲気は、イタリアのシエナによく似ているように思います。
奈良市にはこだわりを持った個人のお店が多くありますが、店主1人1人の突き詰めていく職人的な姿勢や、店から店へと関係が網の目状に繋がっていくところも良く似ています。
急な雨に降られて立ち寄ったカフェ「ミジンコブンコ」(田中さん撮影)
お試し移住期間中に、ご飯を食べに行ったお店で「●●もぜひ行ってみてください」と別のお店を紹介していただくことがよくありました。こういう地元の繋がりの中に、東京から来た自分たちを受け入れてくれるウェルカムな雰囲気が心地よかったです。
元々はイタリアのような「地元に根付いた暮らし」に憧れ、日本でそれが実現できるとしたらどこだろう、と考えていたのも、移住先を奈良市に決めた理由の1つだったように思います。
移住に向けて
今回のお試し移住で、実際の生活圏での買い物や自炊をしてみて、魚屋、肉屋、パン屋、スーパーなど普段使いできる店のクオリティやオープンな雰囲気がよくわかり、移住後の生活イメージもできたので、移住を決めました。
宿所のオーナーさんをはじめとした地元の人たちとのコミュニケーションを通じて、奈良に住むために必要な情報や、ネットワークが得られたのが大きかったです。
お店の店主さんたちは、“1人1人が自分のペースで好きなこと好きなサイズ”でやっていながら、お店もお客さんも横に繋がっていけるオープンな雰囲気があり、その中に自分も入ることで「まちに参加できる」感覚が持てました。
「スローライフ」や「ワーケ―ション」と言うよりはもっと、文化的な刺激があってクリエイティビティがあふれているまちだと思います。
奈良市に移住すれば、まち自体が持つ心地よい文化的刺激に身を置きながら、人の顔が見える感覚の中で、人間らしい豊かな日常が送れるのではないかと楽しみです。