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インタビュー(奈良先端科学技術大学院大学)

ページID:[[open_page_id]] 更新日:2024年4月23日更新 印刷ページ表示

奈良の明日を創る、「奈良先端大」の未来志向

観光都市としてだけではなく、近年はビジネス都市として発展を続けている奈良市の強みの一つに、産学官の連携が柔軟かつ多面的に進んでいることが挙げられます。今回は、奈良先端科学技術大学院大学でそうした地域連携の取り組みを中心的に進めている先生方3名に、地域の伝統産業の振興から最新のメディア技術を用いた情報伝達の効率化まで、現状と今後の展望を伺いました。

奈良先端科学技術大学院大学

奈良先端科学技術大学院大学内、情報科学棟にて。左から高木博史先生、加藤博一副学長、藤本雄一郎先生

 

<プロフィール>

●加藤 博一(かとう ひろかず)さん

理事・副学長 地域共創推進室長

大阪大学大学院基礎工学部制御工学科卒業。 同大学大学院基礎工学研究科修士課程修了。工学博士。2007年に奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授となり、情報科学研究科副研究科長、総合情報基盤センター長、附属図書館長などを歴任。専門はヒューマンインタフェース、バーチャルリアリティ・拡張現実感、画像計測。

 

●高木 博史(たかぎ ひろし)さん

名誉教授 研究推進機構発酵科学研究室特任教授 産官学連携推進部門長

静岡大学農学部農芸化学科卒業。名古屋大学大学院農学研究科修士課程修了。農学博士(東京大学)。2023年3月に奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス領域教授を定年退職後、同年4月から本学研究推進機構の特任教授として新しく研究室を立ち上げ、「酵母」を用いた研究開発に従事。

 

●藤本 雄一郎(ふじもと ゆういちろう)さん

先端科学技術研究科 情報科学領域 助教

大阪大学工学部応用理工学科卒業後、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修了。博士。東京農工大学工学部情報工学科助教を経て、現職。

 

奈良先端科学技術大学院大学

緑豊かな開放感あふれるキャンパス。グローバル教育にも力を入れており、世界中から学生が集まる。赤いシンボルカラーが印象的な建物は「情報科学棟」。この他、緑がシンボルカラーの「バイオサイエンス棟」、青がシンボルカラーの「物質創成科学棟」に分かれる。(写真提供/奈良先端科学技術大学院大学)

 

―――貴校は、先端科学技術を用いて地域の活力と持続性を高めるため、奈良市などの地方自治体と産業振興に関する連携協定を結ばれていますが、その目的と進捗状況についてお聞かせください。

加藤先生:

それについてはまず、2021年4月に始動した「地域共創推進室」の設立から少しお話をさせてください。この推進室の設立の狙いは、大学が持つ先端科学技術を使って地域社会に貢献することで、具体的には、地域の将来像をみんなで考え、共有することから始まります。目標は、困難に強い地域経済を築き、グローバルな課題への対応力を高めることです。科学技術と創造的な取り組みで社会を大きく変える「社会変革」を起こすことが求められており、このために、地域金融機関の南都銀行、奈良市や奈良県といった地方自治体と力を合わせ、新たな価値を生み出し、産業、行政、学術界、金融機関が一体となった共創システムの構築を目指しているんです。

 

―――それは大変重要で有意義な取り組みですね。具体的にどのような活動をされているのでしょうか。

加藤副学長加藤先生(写真左):

主に、情報科学、バイオサイエンス、物質創成科学といった本学の得意とする領域を活かし、地域課題の解決に取り組んでいます。例えば、私たちは奈良の伝統食品産業をサポートするため、バイオサイエンスの研究成果を応用しています。高木先生の研究室で進めている様々な酒類醸造の酵母に関する研究から始まり、現在では奈良漬けなどの発酵食品にもその技術が活用されているんです。本学は先端科学領域に特化しているので、地域課題を解決する際には、我々が持つ技術をどうやって活かせるかということを考え、足りない部分は関係各所と連携しないと解決できません。そういう意味で、奈良高専(奈良工業高等専門学校)にも協力していただいており、さらに今後は、奈良女子大学とも新たに連携を図ることになりました。

 

―――状況が整い、今後さらに地域との連携強化と社会実装が期待できますね。

加藤先生:

はい。産業振興に向けて何かできることを一つずつ解決していければいいなと思っています。まだ大きなプロジェクトにはなっていませんが、先ほども触れたように、例えば高木先生はバイオサイエンス分野のスペシャリストで、長年、酵母の研究を続けられています。酵母というと発酵食品なので、お酒や奈良漬けなど、奈良の伝統食品産業とも良い形のコラボレーションができるのではないかと考えて、取り組んでいらっしゃいます。

 

高木先生高木先生(写真左):

元々は酵母の研究成果を泡盛(沖縄の焼酎)に応用する仕事から始まり、奈良では清酒やクラフトビールを手掛けています。最近では地元のゴールデンラビットビール社との共同開発によって、奈良県初のオリジナル酵母を使用して、大和三山をイメージした「うねひやま」「かぐやま」「みみなしやま」(写真下右)という地域性を活かしたクラフトビールを商品化しました。

クラフトビール

また、本学では地元の特産品である奈良漬けの製造会社とも一緒に研究開発を進めていまして、今後はもっと、奈良ならではの食文化や発酵技術にもアプローチして、地域の伝統産業活性化に貢献できればと思っています。

 

加藤先生:

この分野は、奈良の地域特性が活かせるものとして今後の多角的な展開が非常に興味深いところです。また藤本先生は、奈良市の共同研究事業補助金のマッチング支援制度に応募して採用されたメディア制作会社と、共同研究を進めてくれています。藤本先生の研究テーマとちょうど合致したことから、話が進んだと聞いています。

 

藤本先生(写真右):

藤本先生

奈良市のデザイン印刷会社、株式会社JITSUGYOとの共同研究ですね。私たちの研究室では、人の感じ方やその人に対する効果を定量的に明らかにしようということをやっております。その一環として、アニメーション動画を使って「人の記憶に残る効果」について実験をしているんですが、株式会社JITSUGYOが手掛ける企業紹介のアニメーション動画を活用させていただき、記憶の定着率について研究しています。そこで得られた知見やデータを株式会社JITSUGYOと共有し、どれだけ効果的に情報が伝わるかを具体的に検証しています。今のところは非常に良い手応えを得られていて、この検証結果をベースに、株式会社JITSUGYOとともにアニメーションの効果的な使い方を模索していこうと考えています。アニメーションなら、一度作ってしまえば、繰り返し使えますし、インターネット上で簡単に共有できるので、時間や場所を選ばずに多くの人に印象強く届けられます。このアプローチは、教育や地方自治体などさまざまな分野での情報伝達にも応用できますから、効果的なコミュニケーションツールとしてのアニメーションの活用は、今後の社会においてさらに重要になってくると考えています。

 

奈良先端科学技術大学院大学院インタビュー風景加藤先生:

情報科学領域において、実際に企業や組織が広く情報を伝える際に、その「伝わる力」を客観的に測定することは、とても大きな課題です。藤本先生の実験も含めてどのようなコンテンツが最も効果的か、科学的根拠をもって提案できるようになると良いなと期待しています。それに、今回の実験から得られるデータは、今後のコンテンツ制作においても非常に貴重なものになります。どのようなメッセージが、どのような形で伝わりやすいのか、具体的な数字として示せるようになれば、より戦略的に情報伝達を行えるようになるわけですから。このような形で、地域企業の課題解決や事業発展に、本学が寄与していければと常々考えています。

 

高木先生:

本学は、そもそも地域社会との連携も念頭に置いた専門性の高いコンパクトな教育・研究機関なので、課題解決を望む企業からのご相談を受ける際のハードルは他の機関と比べても低いのではないでしょうか。学内には産官学連携に関する推進部門や窓口もありますから、ご相談内容に応じて適切な対応をさせていただけるはずです。「一緒にこんなことが実現できないか、こんなことに困っている」といったご相談を、もっと気軽にいただけたらと考えています。

 

加藤先生:

そうですね。私たちはただ新しい技術を開発するだけでなく、その技術を社会にどのように役立てるか具体的に示すことも目指しています。これからも地道にデータを積み重ね、科学と社会の架け橋となるような研究を続けていきたいですね。

 

―――さまざまな分野で地域に貢献しようとする動きがあるわけですね。では、これらの活動を進める上で、地域や他の大学との連携はどのように行っているのでしょうか。

加藤先生:

奈良での動きでいうと、奈良女子大学と奈良教育大学が法人統合し、奈良国立大学機構が設立されました。こうした動きも含めて、奈良では地域の大学や自治体、産業界が一緒になって地域課題に取り組むプラットフォームがさらに強固になりつつあります。これにより、より大きな社会課題に対して、多方面からの知見と技術を結集できるようになっているんです。そして、これらの取り組みが地域社会にどのように貢献しているのか、広く社会に伝えることも重要だと思います。我々の研究や開発が地域の人々や企業にどのようなメリットをもたらしているのかを示すことで、さらに多くの協力や支援を得られる可能性があります。

 

高木先生:

確かに、我々の取り組みの価値を社会に認知してもらうことは非常に重要です。実際のところ、私たちが行っている研究や開発が地域社会や産業にどれだけ貢献しているのかを明らかにすることで、今後の活動に対する期待やサポートも大きくなるでしょう。それには、地域社会や関連する産業とのコミュニケーションが鍵になりますね。私たちの研究やプロジェクトが持つポテンシャルを理解してもらい、それを地域の発展や課題解決にどう生かせるかを一緒に考えていく。そういった活動も、今後ますます求められると思います。

 

加藤先生:

まったくその通りです。そして、こうした取り組みを通じて、大学としても地域社会とのつながりを強化し、地域共創に寄与することができればと考えています。我々の活動が、単に研究成果を出すことだけでなく、その成果が社会や地域に積極的に還元されることによって、より大きな意味を持つようになります。また本学はもともと外国人留学生が多いのですが、今年はJETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)と連携協定を結び、国際的な産学連携はもちろん、奈良から海外進出を試みる企業と、本学で学んでいる進出予定先出身の学生たちとをうまくつないだりできれば、双方にとって非常に有益なのではないかと考えています。

奈良先端科学技術大学院大学

印象的なデザインの正門前にて、左から藤本先生、加藤副学長、高木先生

 

 

<取材後記>

今回の取材で、奈良先端大学の地域共創推進室が奈良市とともに歩む姿勢を強く感じました。加藤先生、高木先生、藤本先生が熱く語るプロジェクトには、地域との深い絆と将来への明確なビジョンがあります。奈良の伝統と先端技術を融合させる取り組みは、地域共創の新たな模範となることでしょう。地域社会への貢献という大学の普遍的な使命を、改めて感じる機会となりました。

 

取材日:令和6年2月
取材/撮影:世界文化社

 

 

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