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インタビュー(奈良女子大学 工学部教授 長谷 圭城さん)

ページID:[[open_page_id]] 更新日:2024年4月15日更新 印刷ページ表示

奈良発 世界へ羽ばたく「女性理系人材」の新拠点

女性のエンジニアや理系人材に対する社会的ニーズの高まりを受けて、奈良女子大学に女性エンジニアの育成を目指して工学部工学科が設立されたのは、2022年4月。ファインアートや現代美術を専門とする長谷先生らによる独創的な教育アプローチ、そして、KTCやDMG森精機、SONYグループなど、名だたる企業との包括連携協定は、この新しい学部の特色と期待を象徴しています。女性ならではの視点から社会貢献を目指す将来有望な“リケジョ”たちの挑戦が、この奈良市から始まっています。

奈良女子大学 長谷先生

<プロフィール>

国立大学法人
奈良国立大学機構 奈良女子大学 学長補佐(女性エンジニア育成担当)
工学部教授 長谷 圭城(ながたに たまき)さん

京都市立芸術大学大学院卒業。2000年より奈良女子大学にて勤務。同大学附属中等教育学校教諭を経て、現在は奈良女子大学研究院工学系教授。2022年の工学部開設に尽力し、特色あるカリキュラムの構築や、約30社の企業との多彩な連携プロジェクトを実現させる。

 

女性が、理系分野でより活躍できる機会を増やしたい

―――まずは、国内の女子大として初めて、奈良女子大学に工学部が設立された背景について教えてください。

奈良女子大学 長谷先生長谷先生:

本校での工学部設立は、複数の重要な要素から実現しました。中でも大きかったのは、女性が理系分野でより活躍できる機会を増やしたい、また奈良という地域から国内外に向けて優秀な女性理系人材を輩出することで、社会全体の発展に寄与したい、という思いからです。2018年からこの設立構想を練り始め、さまざまな課題を乗り越えて、2022年4月に開設に至りました。

 

女性理系人材を求める数多くの企業から、期待と応援の声が

―――女子大の中に工学部を新設するにあたり、どのような課題に直面されましたか?

長谷先生:

工学部等のエントランス。奈良市発のグローバル企業「DMG森精機」とのネーミングライツ契約によりDMGMORI棟と命名されている。

まず募集定員の問題が最初の大きなハードルで、新しい学部を設置しても、国立大学としては学生の総定員を増やせないので、学長のリーダーシップのもと学内で多くの議論が重ねられました。また、理工系の学習意欲を持った女子学生を全国からどうやって奈良に集めるか、高校生にとっての魅力的なカリキュラムを考案することも課題でした。とはいえ工学部を開設すると発表してからは、受験生や教育関係者のみならず、女性理系人材を求める数多くの企業から期待と応援の声が寄せられました。奈良に縁の深い企業でいうとKTCさんやDMG森精機さん、また別途ソニーグループさんなどとも包括連携協定を結んでいただいています。これによりオフィスや現場に伺っての実践的な学習機会や、学生たちが実社会の問題解決に関わる貴重な経験を積めるようなサポートを得ています。こうした得難い経験は、学生たちのキャリア形成にも非常に有効ですし、理系分野における女性の活躍を促進する重要な要素にもなると思っています。

 

学生たちが自ら、独自のキャリアを形成できるカリキュラムに

―――学生のみならず企業からも多くの関心を集める工学部の概要を、カリキュラムも含めて改めて教えていただけますでしょうか。

長谷先生:

奈良女子大学 長谷先生

工学部工学科には現在、学生が96名在籍しており、1期生、2期生ともに48名が学んでいます。定員は45名なので、3名多く入学してくれています。最初(1期生)は受験生が集まるかどうか非常に心配していましたが、1期生の前期試験の倍率は6.8倍となり、これは国公立大学では非常に高い数値です。2期生の倍率は、1期生の6.8倍から2.7倍に落ち着きましたが、今年度は再び4.0倍まで上がりましたので、大変ありがたいと感じています。また、3年次編入生向けとして各地の高専(高等専門学校)などを対象に10名分の枠を設けています。

特徴的なカリキュラムとしては、分野や学年を横断して自由に科目選択する履修制度や、STEM教育にアートを取り入れたSTEAM教育、PBL(Project-based Learning)創造的課題解決演習などを導入しています。これにより、学生は自分に合った分野を見つけて深く学び、独自のキャリアを形成することができます。

 

本校の伝統と卒業生の結束力によって、工学部の知名度が拡大

―――志願者の倍率からも、時代のニーズに合った新設学部として注目度と期待感が非常に高いということがわかりますね。

長谷先生:

ありがたいことです。学生の出身地としては関西が半分弱、残りの約半数は全国各地から集まってきてくれているんですが、これは本校の伝統と結束力によるところが大きいですね。さまざまな地域の高校を卒業した本学OGが、新しい工学部の存在を広めてくれているようです。また社会的に、工学系の分野に興味を持つ女性が増えているという手応えも感じています。参考までに、2018年に全国の女子高生約1500人に対して工学部への興味の有無を聞いたアンケートでは、全体の4分の1が「興味がある」と答えてくれました。工学部を選ぶ理由として「社会に貢献したいから」という声が多かったのも非常に興味深い結果です。

本学部は、重工系のものづくりというよりは、人間工学、デザイン的な要素と工学を結び付けて学びを深められますので、そうしたテーマも含めてカリキュラムに生かしています。

 

「好きなものを作る」課題で、炊飯ジャーを⁉

―――工学的な視点から社会に貢献したいという発想が、新鮮で豊かなアイデアにつながるのでしょうか。

長谷先生:

本学部の学生たちの発想は、本当に柔軟で面白いと感じています。

学生たちの伸びやかで柔軟な発想を育む、工学部棟の多目的工作室と学生ラウンジ

以前、奈良高専の学生さんが2022年の「高専ロボコン」(アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト)で全国優勝されたので、その出品作品を学生たちとともに見せていただきました。その後、「なんでもいいから、ものを作ってみて」という課題を出したんです。自分たちで楽しみながら何かを作ってみなさい、と。そうしたらあるグループが「炊飯ジャーを作りたい」と提案してきました。なぜ炊飯ジャーなのか聞いてみると、「食に関する研究を将来行いたい」というんです。発想が僕たちとは全然違いますね。学生たちの、実生活に即した豊かな発想は素晴らしいと思います。工学部で学んだこととその発想力をうまく融合させて、将来的に新しいものを社会に生み出してくれることを期待しています。

 

技術だけでなく、広い視野と柔軟な思考を育てる教育を​

―――学習意欲の高い学生に充実した授業を提供するために、教員確保の面ではどのようなアプローチをとられたのでしょうか。

長谷先生:

私たちは、従来の工学教育とは一線を画す独自の教育プログラムを構築したいと考えて、企業のエンジニアや起業家、人文科学系の専門を持つ教員を積極的に招聘しました。これにより学生たちに対して、技術だけでなく、広い視野と柔軟な思考を育てる教育を提供できるようになったと考えています。こうしたことも、本学部に関心を持っていただくきっかけの一つになっているのかもしれません。

 

“女性の視点を生かした、女性のニーズに合わせた工学”もあり​

―――工学部で学ぶ学生たちは、将来どのようなキャリアパスを目指しているのでしょうか。

長谷先生:

奈良女子大学 長谷先生

多くの学生が伝統的なエンジニアリングの道を志していますが、一方で、新しいテクノロジーを活用したアートやデザイン、さらにはスタートアップを立ち上げるといった野心的な目標を持つ学生もいます。私たちは、そうした学生一人ひとりの夢をサポートするための柔軟な教育プログラムとキャリアサポートを提供しています。日本に女性のエンジニアが少ないというのは長年の社会的課題ですので、奈良女子大工学部として人材を送り出したいところです。今の時代、言い回しが非常に難しいのですが、“女性のニーズに合わせた工学”というのもあるんじゃないかと思います。単にものを作るだけではなくて、サービスやインフラまで含めると非常に幅広い分野ですから。

 

地域社会に根差しつつも、世界的な視野を持つ工学部に​

―――奈良女子大学としては、工学部が設立されてもあまり違和感がなかったのか、それとも大きな大学改革の一つだったのでしょうか。

長谷先生:

やはり大きな挑戦でした。その挑戦がどのような結果につながるかは、これから2,3年後の評価によるところが大きいと思いますが、私たちが目指すのは、地域社会に根差しつつも世界的な視野を持つ工学部を創ることです。女性エンジニアが社会のあらゆる場で活躍し、その能力を最大限に発揮できるような環境を整えていきたいと考えています。また、国内外の企業や大学との協力をさらに深め、学生たちにより多くの国際的な学習機会を提供することも重要な目標です。奈良女子大学工学部が、女性の科学技術分野への参加を促進し、新たな価値を創造する拠点となることを願っています。

 

―――期待を集める学部としての、今後の展望について教えてください。

奈良女子大学 長谷先生

長谷先生:

工学部としては、さらなる発展と学生たちの多様なキャリア支援を目指していきます。学部として最初の卒業生を送り出す来年度には大学院の設立も構想しており、より専門的な研究ができる環境を整えたいと考えています。また、国内だけでなく海外の企業とも連携を深め、学生たちには国際的な視野を持ったグローバルに活躍できる人材として羽ばたいてもらいたいですね。

 

 

<取材後記>

このインタビューを通じて、奈良女子大学工学部の設立背景、教育方針、学生のプロジェクト、そして将来の展望について知ることができました。それは、奈良市における女性理系人材の育成という新しい章が始まったことを意味します。奈良女子大学工学部の設立は、地域社会だけでなく、国内外の科学技術分野においても今後大きな影響を与えることでしょう。女性が科学技術の進展をリードする時代が、ここ奈良市から始まっているのです。

 

取材日:令和6年2月
取材/撮影:世界文化社

 

 

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