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インタビュー(奈良工業高等専門学校 情報工学科 准教授 上野 秀剛さん)

ページID:[[open_page_id]] 更新日:2024年4月4日更新 印刷ページ表示

地域と共生する教育、「奈良高専」に見る未来像

奈良高専における女性エンジニア育成の現状とその未来に迫るこの対談では、上野先生が語る「しなやかエンジニア教育プログラム」や地域との協力による教育の取り組みを通じて、技術の進化だけではなく、教育における多様性と包括性の重要性が浮き彫りになります。社会全体のニーズに応える教育の形を模索する奈良高専の姿勢は、新たな時代のエンジニア育成における指針を示しています。

奈良工業高等専門学校 上野先生

奈良高専のエントランス近くに展示されている、ノースアメリカン社製の飛行機「T-6テキサン練習機」の前にて。

<プロフィール>

国立高等専門学校機構
奈良工業高等専門学校 情報工学科 准教授 上野 秀剛(うわの ひでたけ)さん

岩手県立大学卒業後、奈良先端科学技術大学院大学で博士(工学)を取得。現在、奈良工業高等専門学校情報工学科で准教授として若きエンジニア育成に注力する一方、産学協同・地域創生に関わる複数の役職を務め、地域社会への貢献を進めています。

 

学生には、社会に貢献するエンジニアとしての資質を高めてほしい

―――奈良高専は女性エンジニアの育成に力を入れていると伺っていますが、具体的な取り組みについて教えてください。

上野先生:

奈良工業高等専門学校

わが校では「しなやかエンジニア教育プログラム」という、「豊かな感性・表現力」といった女性に親和性の高い分野を学び、主に女性エンジニアリーダー育成を目指す特別プログラムを設けており、令和5年度には女子71名、男子19名が履修しています。これはエンジニアリーダーを目指す学生たちに、ただ技術を学ぶだけでなく、その技術が社会や利用者にどのように影響を与えるかを考慮したカリキュラムを提供するものです。実践的なワークショップとして、学外から招いた芸術家やデザイナーによるオムニバス形式の講義を通じて、学生たちが多角的な視点から問題解決能力を養えるよう、働きかけています。このプログラムを通じて、技術のスペックだけではなく、それを利用する人々のことを考え、社会に貢献するエンジニアとしての資質を高めていくことができるようになってくれることを期待しています。女性ならではの視点を取り入れた製品やサービス、システムの開発は、今までにない新しいアプローチを生むことができますから、女性エンジニアの増加は、技術分野の多様性を高め、より豊かな発展をもたらすのではないでしょうか。企業からの需要もとても高く、女性のエンジニアの育成は非常に重要視されています。

 

女性エンジニア育成への取り組みはさらに加速しています

―――キャンパス内で多くの女子学生を見かけますが、特別な入試制度などを設けていらっしゃるのでしょうか。

奈良工業高等専門学校 上野先生

上野先生:

成績上位の女子学生を対象とした推薦入試を実施し、積極的に才能ある学生の入試を促しています。さらに、高専としては国内初となる女性校長の就任もあり、女性エンジニア教育への取り組みはさらに加速しています。女子学生の割合というのはここ数年で増加傾向にありまして、これも学科によってかなり違うんですけれども、例えば物質化学工学科ですと半数が女性になります。特に女性のみを対象とした取り組みを行っているわけではありませんが、広報活動を通じて、当校の多様なプログラムを丁寧に紹介しています。その結果、多くの女子学生の関心を引くことができたのだと思います。

 

―――奈良に立地する工業高等専門学校として、地域特性や環境が現場の教育にどのように影響しているか教えてください。

上野先生:

奈良は教育への取り組みが非常に強い地域で、特に優秀な留学生の受け入れにも力を入れています。地域の特性や市民性も、真面目でコツコツとした取り組みを好む傾向があるため、教育環境としては非常に良好です。企業との共同研究などにおいても、そうしたことが非常にプラスに働いているなと感じることは多いです。また、近くに大阪などの重要な工業集積地がありながら、環境としては比較的落ち着いていて生活しやすく、先ほど言ったような勤勉で穏やかな気質の人が多いという奈良の地域性は、我々のような教育機関にとっても非常に良いと思います。

 

―――「アントレプレナーシップ教育」についても取り組んでいると聞きましたが、具体的にどのようなことをされていますか。

上野先生:

​高専スタートアップ教育環境整備事業の一環として学生が地域社会とつながるような人材育成を目指しています。工作機械を気軽に使える環境を整え、3Dプリンターなどの導入により、より安全に製品開発を行えるようにしています。企業や地域社会からの反応や卒業生に対する評価も高いので、こうした教育は社会からのニーズも大きいと感じますね。この教育の一環として、「学生アイディアチャレンジ」という公募プログラムを2011年から実施しています。学生が自分で設定した目標を実現するためのプロジェクトを支援するもので、学内で公募し、審査を経て採択されたプランには、ものづくりや試作検証の材料費として10万円を支給します。「起業チャレンジ部門」も新設し、今後も地域の金融機関や自治体の協力も得て積極的に取り組んでいく予定です。こうしてさまざまな体験を経て巣立つ学生は、企業からも高く評価していただいています。現在1クラスに40名ほど学生が在籍しており、その中で進学せずに就職を選択する割合は4割で、各学科において20名弱になりますが、それに対して、例えば情報工学科には年間600件もの求人があります。

 

―――これからのエンジニア教育の方向性についてどのようにお考えですか。

物質化学工学科にある機器分析室

上野先生:

現代の技術進化は非常に速く、特にDXやAIの分野では慢性的な人材不足が指摘されています。工業系の教育機関としてこの状況に対応するためには、ただ単に知識を教えるのではなく、実社会で必要とされるスキルや視点を学生に身につけさせることが重要です。そのためには、企業や地域社会との連携をさらに深め、実践的な教育を強化していく必要があります。ただ、奈良では、まだまだ地元企業への就職が少ないのが現状です。大阪や京都への就職が多いため、地元での人材確保や活用のためには、地域社会全体での取り組みが必要なのではないでしょうか。自治体だけでなく、地元企業が積極的に学生と関わり、魅力的な就職先としてアピールすることが重要だと思います。

 

―――最後に、奈良高専が目指す教育の未来像について教えてください。

上野先生:

単に技術者を育成するだけではなく、社会に貢献できる人材を送り出すことを目指しています。そのためには、変化する社会のニーズに応じられる柔軟性と、高い専門性を併せ持つエンジニアの育成が不可欠です。また、地元奈良との連携を深め、地域社会に貢献できる人材を育成することも私たちの重要なミッションです。これらの目標に向かって、教育プログラムの充実や企業・地域社会との連携をさらに進めていきたいと考えています。本校をハブとして、企業や自治体にも参加していただいて、学生とコラボレーションする場をもっと積極的に作るべく、さまざまな取り組みを今後も続けていきたいと思います。

ものづくり実験実習棟の写真

“デジタルものづくり”の教育を推進する体験環境として設置されている起業家工房「Hub×Fab」。
学生たちが自由に出入りし、実際に機器に触れ、試行錯誤しながら自分のアイデアを形にすることができる貴重なスペース。

 

 

<取材後記>

奈良高専のキャンパスを歩き、上野先生のお話を伺い、ただ技術者を育成するのではなく、社会に貢献し、地域社会とともに成長するエンジニアを目指す奈良高専の教育理念に触れることができました。学生たちの未来に寄り添い、多様なニーズに応えようとする熱意は、社会に新たな価値や解決策をもたらしていくことでしょう。

 

取材日:令和6年3月
取材/撮影:世界文化社

 

 

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