はるをまだ知らない

三原 寛子料理研究家

南風食堂という屋号で、フリーランスで料理の仕事をして、今年で20年になる。
食べたことがない素材の組み合わせを求めて、その土地でしか使われない調味料を探して、少し時間が空くと、国内外問わず、すぐ旅に出てしまう。お金の代わりに野菜が入場料の、少し風変わりな料理と音楽のイベント'give me vegetable'を主催していて、日本全国で60回ほど開催しているので、国内もいろいろなところに旅をして、料理をつくった。

だけど、そんな旅が多い暮らしの中でも、ここ数年、まだ見ぬ日本を見てみたいという気持ちが大きくなってきた。
深さが異なる様々な緑色が重なる森の中を歩いてみたい。歩くごとに立ち上がる土の香り、木の香り、葉の香り、苔の香りを心ゆくまで吸い込んでみたい。木漏れ日を受けたい。露に触れたい。そんな風景が近くに住む方たちが昔から変わらず大事にしてきた暮らしや食を味わってみたい。
仕事がら、どうしても常に新しいものを創造することに頭がいってしまう。都市化して便利になったありがたみは大事に思うけれども、やはりどこを旅しても、均一化して同じ風景の連なりを感じてしまう中で、今、昔から変わらぬ風景のある日本を味わってみたい。それが芯のある未来につながる創造に大事なヒントをくれるのではないか。そんな思いが強くなっていた。

そんな中、たまたま私が料理係をしていた友人の結婚式で出会った写真家の田淵三菜さんから、数枚の写真が送られてきた。奈良市の東側。山の風景や、そこで暮らす方の写真を拝見した。

奈良市の東側、山の風景

奈良の東のものを、今までに2つ口にしたことがある。たまたま飲んだことがある月ヶ瀬で取れた茶の葉でつくった紅茶の、土を感じる甘く香り高く包み込まれるような深い味わい。月ヶ瀬では、友人が原木しいたけをつくっていて、そのしいたけを七輪で焼いて食べたこともある。じっくりと火が入るとしいたけの内側から露が出てくる。その露がこぼれないように、塩だけで食べた。木の精をそのままぎゅっと詰めたような官能的でめまいがするような濃厚な味にびっくりしたのを覚えている。そんなプリミティブな味の記憶と、田淵さんから送られてきた写真のイメージが重なり、「ここに行きたい」という気持ちが強く沸いてきた。

観光名所や、人に話せるような見どころがたくさんあるところでは無いかもしれない。けれども、この写真の土地を歩いたり、匂いをかいだり、人と話したり、採れるものをいただいたりすることが、言葉にはうまく説明できないけれども、今の自分に足りないところを満たしてくれる。そんな予感がしている。しばらくして仕事が落ち着いたら、わたしはきっと奈良の東を訪れるだろう。こんなに旅の予定が待ち遠しいのは久しぶり。とても楽しみにしている。

奈良市の東側、山の風景

南風食堂という屋号で、フリーランスで料理の仕事をして、今年で20年になる。
食べたことがない素材の組み合わせを求めて、その土地でしか使われない調味料を探して、少し時間が空くと、国内外問わず、すぐ旅に出てしまう。お金の代わりに野菜が入場料の、少し風変わりな料理と音楽のイベント‘give me vegetable’を主催していて、日本全国で60回ほど開催しているので、国内もいろいろなところに旅をして、料理をつくった。

だけど、そんな旅が多い暮らしの中でも、ここ数年、まだ見ぬ日本を見てみたいという気持ちが大きくなってきた。
深さが異なる様々な緑色が重なる森の中を歩いてみたい。歩くごとに立ち上がる土の香り、木の香り、葉の香り、苔の香りを心ゆくまで吸い込んでみたい。木漏れ日を受けたい。露に触れたい。そんな風景が近くに住む方たちが昔から変わらず大事にしてきた暮らしや食を味わってみたい。
仕事がら、どうしても常に新しいものを創造することに頭がいってしまう。都市化して便利になったありがたみは大事に思うけれども、やはりどこを旅しても、均一化して同じ風景の連なりを感じてしまう中で、今、昔から変わらぬ風景のある日本を味わってみたい。それが芯のある未来につながる創造に大事なヒントをくれるのではないか。そんな思いが強くなっていた。

そんな中、たまたま私が料理係をしていた友人の結婚式で出会った写真家の田淵三菜さんから、数枚の写真が送られてきた。奈良市の東側。山の風景や、そこで暮らす方の写真を拝見した。

奈良の東のものを、今までに2つ口にしたことがある。たまたま飲んだことがある月ヶ瀬で取れた茶の葉でつくった紅茶の、土を感じる甘く香り高く包み込まれるような深い味わい。月ヶ瀬では、友人が原木しいたけをつくっていて、そのしいたけを七輪で焼いて食べたこともある。じっくりと火が入るとしいたけの内側から露が出てくる。その露がこぼれないように、塩だけで食べた。木の精をそのままぎゅっと詰めたような官能的でめまいがするような濃厚な味にびっくりしたのを覚えている。そんなプリミティブな味の記憶と、田淵さんから送られてきた写真のイメージが重なり、「ここに行きたい」という気持ちが強く沸いてきた。

観光名所や、人に話せるような見どころがたくさんあるところでは無いかもしれない。けれども、この写真の土地を歩いたり、匂いをかいだり、人と話したり、採れるものをいただいたりすることが、言葉にはうまく説明できないけれども、今の自分に足りないところを満たしてくれる。そんな予感がしている。しばらくして仕事が落ち着いたら、わたしはきっと奈良の東を訪れるだろう。こんなに旅の予定が待ち遠しいのは久しぶり。とても楽しみにしている。